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 8月になり、職場で夏休みの話題が出始めた。会社の夏休みはお盆よりも少し前から取ることができた。  実家まで電車で1時間半程度の距離だが、今年も帰らなきゃいけないと思っていた。  託に言うことはできなかった。地元は一緒だったからだ。どうしても中学のことを思い出してしまう。  僕は仕事が忙しいと言い訳して、1週間プレイをお休みした。託もその間用事があるというからちょうどいい。  母はちゃんとやっているのかと聞いてきて、大丈夫だと答える。いつもの通りだった。 「そういえばさっき託君に会ったわよ」 「え?」 「懐かしいわね」  僕は目を見開いた。そんなはずはない。  託とは小学校高学年で初めて同じクラスになり、その時は普通に友達だったから母も覚えているのだろう。  中学の話はしていない。その時親とも距離を取っていた。  用事があると聞いたけど、まさか帰省する予定だったのか。偶然同じ時期に重なるなんて。  どうしようと思った。しかし、すぐに思い直した。いくら近くだからといってそう簡単に会うわけない。  実家に帰ってきたって会いたい奴がいるわけじゃない。  中高でつるんでいた奴らもどこかに行ってしまったし、連絡先も知らない。進んで会いたくもなかった。 「ちょっと散歩してくる」  実家にいても手持ち無沙汰で悶々と余計なことを考えてしまうので、気分転換に外に出た。  僕の住んでいる都内とくらべると少し涼しいとはいえ、本場の夏だ。こんな暑い日にふらふらしていたら熱中症になってしまう。  途中で飲み物を持ってくればよかったと思った。  日陰になっている公園のベンチに座る。  自動販売機を見つけて、財布を持ってこなかったのに気付いた。喉渇いた。仕方ない。帰るか。  ふと気になってブランコの方に目をやる。暑いからか公園には誰もいない。なんとなく漕ぎたくなってブランコに近づくが、鎖を持つとものすごく熱かった。  やっぱり夏は駄目だ。  汗を拭い、公園の入口に足を向けた。  そういえば中学校はこの近くだった。  卒業してから一度も行ったことはない。僕にとってもトラウマになってしまっている。

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