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第2話 始まりは前途多難
新しい自宅は小さい庭が付いた洒落た一戸建てで、今まで住んでいた古びた1DKのアパートとは大違いだ。
何より僕一人の部屋を用意してくれていて、それがうれしかった。
「律、陽馬くんを二階の部屋へ案内してあげなさい」
「ああ」
律が返事をし、歩き出したので、僕はその後を慌てて追いかける。
斜め後ろの位置から律の顔をこっそり盗み見た。
見れば見るほどかっこよかった。
染めてるのか元々色素が薄いのか瞳と同じ薄茶色の髪をサイドで軽く流し、二つ開けたピアス、お洒落な服の着こなし。
何もかもが完璧で、僕とは正反対だ。
だって僕はと言えば、垢ぬけない顔に乱視が入ったどのキツイ眼鏡をかけ、髪は黒……行きつけなのは『美容院』ではなく『理髪店』。
服装に至っては、このはれの日にどんな服を着ればいいのか分からなくて、高校の制服のブレザー姿だ。
勿論持っている服だって律みたいなお洒落なものはなくて、野暮ったいものばかり……僕のセンスがないのだから、こればかりはしかたない。
律と仲良くなれれば、服とかも選んで貰えるのだろうが、さっきの態度からしてあまり友好的な関係は築けなさそうな気がする。
「なあ」
律が二階に向かう階段の途中で唐突に振り返って声をかけて来た。
「えっ?」
物思いに沈んでいた僕は声が少し裏返ってしまい、恥ずかしくて顔が赤くなる。
そんな僕を律はまたしてもクスリと笑ってから(どうしても馬鹿にされている感じがしてならない)言葉を続けた。
「陽馬だったよな? 誕生日、いつ?」
「……四月の八日ですけど」
なんで同い年なのに敬語を使わなきゃいけないんだと自分自身情けなく思いながらも答えると、律は一瞬驚き、それから勝ち誇ったように笑う。
「へえ? ……俺は四月の七日。一日だけど俺の方が年上だな」
「え……?」
誕生日が一日違いだなんて、ちょっとした偶然だなーなんて僕が思っていると、律は尚も勝ち誇った声で続けた。
「おまえ、弟なんだから、兄の言うことは何でも聞けよ」
「そんな……」
たった一日違うだけなのに、どうしてそんな上から目線の命令されなきゃいけないのかと流石の僕も反論しようとしたとき、
「はい、ここがおまえの部屋」
部屋の前に着いてしまった。
律は不敵に笑うと、僕の隣の部屋を親指で指す。
「で、隣が俺の部屋ね。よろしく、陽馬」
そう言うと、ひらひらと手を振り、自分の部屋へと入ってしまった。
僕は夢にまで見た自分の部屋の前に茫然と立ち尽くし、これから始まる生活が前途多難になる予感を覚えていた。
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