12 / 137
第12話 気まぐれな猫のような彼
それからも律は気まぐれな猫のようにノックもせずに部屋に入って来ては、僕の体に触れ、僕を高みへと導いた。
その日も僕は翌日の小テストの勉強中だったというのに、律はまるで自分の部屋へ入るようにやって来て、僕から教科書を取り上げた。
「律、教科書返して。明日小テストがあるから、……今日は絶対だめだよ」
律は僕の教科書をパラパラとめくっていたが、やがてその薄茶色の瞳で僕を見つめた。
律の瞳は本当に綺麗で、見つめられると僕は金縛りにあったように身動きできずに見惚れてしまう。
律はその瞳を微笑ませると僕を誘う。
「一回抜いといた方が勉強の効率は上がるよ」
成績のいい律の言葉だから一見、説得力がすごそうだけど。
「律は勉強なんかしないでも、いつも成績トップじゃないか」
僕は唇をとがらせて小さく言い返した。
そう、僕は律が勉強をしているところを見たことがない。
律は在宅中は女の子を部屋に連れ込んでるか(ちなみにいつも違う女の子だ)、ミステリ小説を読んでるか、テレビを見てるか、……僕の部屋にいるかだ。
そりゃ律の生活の全てを知っているわけじゃないから、僕の知らないところで勉強に励んでいるのかもしれないけど、僕のように机にかじりついてという具合ではなさそうだ。
親友の学からチラリと聞かされた話によると、律は高校でも、授業をさぼったり、寝ていたりとあまり真面目な生徒の方ではないらしい。
それでも成績がいつも学年トップなので、教師たちも律の不真面目さには目をつむっているらしい。
悔しいけど律は天から二物どころか五物も十物も与えられてると思う。
僕の文句に、律はその瞳をますます楽しそうに微笑ませる。
「失礼だな。俺だって勉強してるし、努力だってしてる。たださっきも言ったようになんにでも効率よくいくやり方があって、俺はそれを知ってるだけ。で、それを陽馬にも教えてあげようって言ってるんだよ」
「…………」
僕が無言でいると、律は教科書をベッドに放り投げ、勉強机に向かっていた僕の体を軽々と持ち上げた。
ともだちにシェアしよう!