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第37話 魔法が解けるとき

 しかし、シンデレラの魔法が午前零時で解けるように、僕の浮ついた気持ちも夜には消え去ってしまうことになる。  昨夜の律の誕生日に続いて今夜は僕の誕生日。  テーブルの上には僕がリクエストしたものばかりが並び、甘党の僕のために父さんが大きなホールケーキを買って来てくれた。 「あら、陽くん。随分お洒落なシャツ着てるわね。どうしたの?」  母さんが目聡く僕のシャツに気づき、聞いて来る。 「え……? あー……。誕生日のプレゼントに貰った……」 「あら! 誰から? もしかして女の子かしら?」 「……違うよ」  律から貰ったことは隠しておきたかった。  なんていうか僕と律だけの秘密にしておきたいって言うか……。  そんな浮かれたことを考えているうちに時間は過ぎて行き、やがて母さんが小さく首を傾げながら呟く。 「……律くん、遅いわね」 「全くせっかく陽馬くんの誕生日のお祝いだというのに、どこで道草食ってるんだか。あいつは。すまないね、陽馬くん」  父さんも母さんに続く。 「いえ」  そう、父さんと母さんと僕はとっくにダイニングテーブルに揃っていて、あとは律を待つだけという状態だったのだ。 「先に始めてようか? 陽馬くん。お腹すいただろう?」 「大丈夫です。律の帰り、待ってたいから」  父さんにはそう答えたものの、この時点で僕はやな予感がし始めていた。  そして予感は的中する。  律から家の固定電話の方へ連絡が入ったのだ。 「律くん、用事ができたから今夜は遅くなるって」  電話に出た母さんからそう告げられ、僕はショックを受けた。  用事って何?   どうして僕の誕生日、一緒に祝ってくれないの?   律が作ってくれた服着て待ってるのに。  胸の中で色々な思いが渦巻く。 『俺の誕生日からおまえの誕生日になる瞬間を抱き合って過ごしたい』  昨夜はあんなふうに言ってくれ、もどかしくなるくらいじっくり愛してくれたのに。  でも、そこで僕は気づいてしまった。  あれだけ濃厚なセックスをしても、律はやっぱり僕に「好きだ」とは言ってくれなかった。  僕と律は決して恋人同士ではない。僕の方が一方的に律に恋してるだけで。  なのに、僕は心のどこかで律も僕のこと好きでいてくれているって自惚れ始めてたんだ。  ……馬鹿みたいだ。 「陽馬くん? どうしたんだい?」 「陽くん、顔色悪いけど大丈夫?」  父さんと母さんが心配そうに僕のことを見て来る。 「……何でもない。お腹空いちゃった。食べてもいい?」  もう全く食欲はなかったが、せっかく父さんと母さんが設けてくれたお祝いの席だから、僕は目の前の食事を食べ始めた。

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