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第23話(最終話)

「……でもやっぱり、この手で抱いたらね。愛おしい、って。無事に生まれて来てくれて良かったって、そんな感情が心の底から湧いてきたんだ。だって僕も、僕を好きになってくれるんだ、生きていて良いんだ、って思える人と出会えたから」  唯一の家族のようであった椿から冷たく当たられても、学校で集団無視をされても、あげく幼少時から知っている村人達から殺されそうになっても。  それでも彼には人を愛するという感情がある。  過去を乗り越え、未来へ向おうとする強い意志がある。  それなら、これからもきっと大丈夫。何があっても上手くやっていける。  真白は、やっぱり真白だ。 「ねえっ、先生。これからも会えるかな? 話したいことたくさんあるんだ。それにね──」 「……やめておこう。俺達はもう関わっちゃいけないと思う」 「そんな……」 「真白だってもういい大人だし、わかるだろ? あの村のことを知っている人間は、少ない方がいい。それに、奥さんと子供を守ってやらなきゃいけない。それは真白以外にはできないよ」  真白は寂しげに俯いた。夫、父としての自分。  たかだか元教師の俺。どちらを優先すべきかなんて決まってる。  そこで駄々をこねるようなことをしない辺り、真白はやはり頭がいい。 「……じゃあ、先生。変なこと言っていい?」 「ん?」  彼は満面の笑みで、 「大好きでした」  と、二十年越しの告白を口にした。  “俺も”  出かかった言葉は涙と共に押し殺した。 「……これからも幸せになるんだぞ」 「うん」 「誰よりも……な」 「うん。先生も」  そう言って真白に手を差し出された。  あの時とは違う。逃げる為じゃない。先に進む為。  互いのより良い人生を誓って、彼の手を取る。  強く握手を交わす彼は、とても勇敢に見えた。 「そうだ! 先生」  言いかけていたことがある、という風に、真白が振り返った。 「絶対、大丈夫だからね」  必死に耐えていた涙が、ひとりでにこぼれ落ちた。

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