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カランと音がして、扉が開く。 黒いパーカーを着て、帽子を目深に被った少年が中に入った。 170に満たないくらいの身長で、少し童顔だが、整ったキレイな顔立ちをした少年だ。 薄暗いバーのカウンターに向かい、ウイスキーを手でカラカラと転がしている長髪長身の男に声をかける。 「終わったよ。これが奪還した書類」 少年はクリアファイルに入った書類を渡す。 少年らしく爽やかな声だった。 「ご苦労だった。さすがだな、ユキト」 長髪の男は、低い声で一言そう言った。 「じゃあ、俺はこれで」 「待て、ユキト」 踵を返そうとする少年、ユキトを男が呼び止めた。 「次の仕事?」 「あぁ。一仕事終わったばかりで悪いがな」 ユキトに隣に座るように促した。 「"カーネーション"を知ってるか?」 「過激派集団でしょ。裏の世界じゃ有名だ」 「そのカーネーションの動きがここ数日活発になっている。中でも多いのが薬の密売だ」 男は情報の書いてある紙をユキトに渡した。 「証拠を掴めばいいの?」 「あぁ、そうだ。首謀者がわかれば殺ってもかまわん。ただし、深入りはするな。奴らに関する情報は少ない。それに、かなりの手練がいるという噂だ」 「…心配してくれてるの?スザクさん」 「受け取り方は自由だ」 スザクと呼ばれた男はフッと笑った。 ユキトは受け取った紙をしまった。 スザクはそんなユキトをじっと見た。   「なに?」 視線が気になったユキトが聞き返す。 「綺麗な目をしているな、お前は」 突然、仕事とは関係のないことを言われ、ユキトはきょとんとした。 「スザクさん、飲みすぎたんじゃない?」 「まだ2杯目だ」 スザクはグラスを持ち上げて言った。 「スザクさんって、何歳なの?」 「キミよりも10個は上だよ、美少年」 そう言うと持ち上げたグラスを口元に持っていく。 ユキトは、少しだけスザクの顔を見てから、何も言わず、店を出た。

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