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「ユキト、隠さないでくれ。ボイスレコーダーにも声が残っていただろ?」 ユキトはカッと顔を赤らめた。 「聞いたの…?」 「あぁ、すまない。レコーダーの再生位置を懸命に調整していたから、何かあると思ってな」 「スザクさん、俺は…んっ、んん」 ユキトが何かを言いかける前にスザクに唇を塞がれた。 この間よりも激しく長いキスだ。 「んむぅ、ん、はぁっ…」 ようやく唇を開放される。 「どうして…?」 「ユキト?」 「スザクさん、からかってるのか…?なんで…キスなんてするんだよ…!」 ユキトは顔を真っ赤にして言った。 ユキトにとってスザクは暗殺チームのリーダーであり、仕事上の上司だ。 それ以上でも以下でもなく、ましてや、スザクがユキトに特別な感情を持つなどあり得ない。 そう思っているからこそ、何故自分にキスなどするのかがわからず、ユキトは憤りを感じているのだ。 「ユキト…!私は…」 「もう、俺の心をかき乱さないで…っ」 ユキトは目を少し潤ませて言った。 そして、そのまま走ってバーを出ていってしまった。 乱暴に閉められたドアがカランカランと音を立てる。 残されたスザクのテーブルに、バーのマスターがウイスキーを差し出した。 「なぁ、スザク。今日は客はいねーが、俺がいることも忘れるなよ?どうしたらいいのかわからなかったぜ」 マスターはスザクに言った。 マスターは、暗殺チームの情報屋を担当しているメンバーだ。 「すまない。私はどうも不器用だな。ユキトの事は本当に大切だ。できる事ならこんな仕事も辞めさせたいと思っている。だが、暗殺者として育てられた彼には、私の想いはなかなか伝わらないようだ。チームメンバーとの仕事以外での接触も基本的には禁じられているから、想いを言葉にすることもはばかれる。」 「お前ら、2人とも不器用だよ。俺は見てられないな。」 マスターは自分の分のウイスキーを飲みながら言う。 スザクはウイスキーの氷が溶けるのをじっと見ていた。

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