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第9話「兄弟」

教室に荷物を詰め込んで、一カ所にかためた。 「これでよし、と」 「入山、大丈夫か?」 「ん?全然大丈夫だよ?」 入山は大分疲れているように見えた。先程義人達を気遣うように言葉をかけていたが、一番メンタル面でキツいのは入山だろう。来なくなった斉藤にもこまめに連絡を入れつつ、グループの指揮を取り教授や助手達ともやり取りをしてくれている。 体力面では全員が装飾の為に動き回りそれなりに各々が疲れてはいるが、こうやってグループを束ねると言うのはやはり気疲れがかかる。入山に対して皆んながフォローしている現状はある意味好ましくもあった。 あのまま斉藤が来続け、藤崎や義人への態度が酷くなる一方であったならグループはまとまらず、斉藤を軸にボロボロと崩れていっただろう。 「帰ろうかー」 「そうだねー」 その点、全員が入山に対しては好印象で、少しでも力になろうと動こうとしている。 西野と片岡がのんきにそう言って、それでも何となく入山を気遣うように側に来て笑いかけた。 藤崎と義人は他の班の荷物と混ざらないよう、段ボールとバッグに「うな重」と書いた白いガムテープを貼っていく。 近くにある他の班の荷物には、同じように「チームA」「かなこ」などチーム名や人の名前がどこかに記されていた。中にはブルーシートをかけて区分けしているところもある。 「あ、そうだ。せっかく一緒の班なんだしさぁ、ご飯食べにいかない?」 夕飯は全員食べていない。遠藤の口から出た発言に皆疲れが吹き飛んだような勢いで顔を上げ、パッと笑顔を浮かべる。 「食べたい!っというかもっと皆と話したい!」 入山もすぐに賛同した。 藤崎と言う何だか微妙な奴がいる事以外は構わない義人も入山と顔を見合わせる。 どうやら全員賛成のようだ。 「たべ、、、あ!!」 「え?」 食べたい、と言いかけて片岡が止まった。全員でそちらを向きながら、段々と「まずった」という表情になって行く片岡の言葉を待つ。 「お、お金ない!!今日財布忘れて、たまたまリュックに入ってた300円しかない、、!!」 「片岡ぁ、そりゃないわー」 「ごめんなさいぃ」 心底残念そうに言う片岡を、「大丈夫大丈夫、、!」とか言いながら遠藤が抱きしめている。なかなかにぎやかな班員達だった。 「まあでもこの時間だし、空いてる店少ないかも、、?」 「んー、そうだねー」 入山の発言に遠藤が続く。 教室に残っているのは義人達の班と他にはもう一つの班しかいない。そこももう帰る準備をしている。あと数分で21時になるのだからそれも仕方ないだろう。校舎に残っている生徒自体が少ない。 「あ、分かった。テキトーなのでよかったらさ」 「え?」 義人の隣に突っ立っていた藤崎が声を出す。 「俺のアパート来て食べる?近いし、食材買ったら何かしら作って出せるよ」 「え?」 あまりに唐突な提案に義人の口がポカっと開いて塞がらない。 藤崎はそんな彼にニコリと完璧な笑みを返し、他の班員達に視線を戻す。 (は?藤崎の、アパート?) 義人の思考回路はグルグルしていた。嫌味にも近い藤崎の笑みに対して苛立ちを忘れる程に疑問で頭が渋滞している。 「あー!藤崎くんて一人暮らしだっけ!」 ぽん、と手を合わせたのは入山だった。藤崎が一人暮らしだと言うのは初耳だったが、これからそこに行くと言うのはどう言う事だろうか。 残っていたもう一つの班が解散し、チームうな重に各々お疲れ、と声をかけて教室を出て行く。 「うん。そうそう」 「え、でもいいの?」 「平気だよ。1人300円くらいもらえれば駅の近くのスーパーで食材買えるし。片岡さんはお金明日で良いよ」 (え、行くの?藤崎の家?) 驚いて目を見開く。不意に藤崎がそちらを振り向き、プッ、と笑って驚愕の表情を浮かべる義人の頬に手を伸ばし、むにっとつねる。 「あ!?」 「はっは。何その顔。意外だった?」 困った様に笑いながらつねった頬をむにむにと揉み続ける藤崎。からかわれるような物言いに急に恥ずかしさが込み上げ、頬をつねっている手を振り払った義人は、嫌味のひとつでも言ってやろうと身構える。 周りの女子達はそんな2人を眺めたり帰りの支度を終わらせて荷物を持ち上げ始めていた。 「やめろっての!意外だよ、お前、生活力なさそうだし」 払った手はすんなりと離れて行ったが代わりに義人の言葉にむかついたのか、藤崎の眉根に少し皺が寄る。 「ひど。俺料理うまいよ?」 「それは嘘だろ」 藤崎の拗ねた様な態度に義人は少し面白くなる。苦笑いしながら言い返すと5センチ上の濃い茶色の瞳はどことなく優しい色に揺れた。 別段彼は拗ねているわけではない。今日は知り合ってから1番穏やかに義人と話せているな、と藤崎は嬉しく思ってテンションが上がっているだけだ。目の前で「好きな人」の表情がこんな風にコロコロ変わる事に心臓がうるさいくらいに波打っている。 (まあ、ちょっと普通に喋れるようになったしいっか) 義人自身も今日は割と藤崎との会話を楽しんでいた。 「はー?何だそれ。入山さーん」 「え?」 義人も含めて5人で乗り込む事になる上、時間も時間だと女子達は迷惑にならないか等の相談をしているところだった。その中の入山が、藤崎に呼ばれて義人達の方を向く。 「来れそう?」 「迷惑じゃなければ」 遠慮がちな入山の返事に、ニコッと藤崎が笑って返す。 「全然大丈夫。じゃあ皆参加。あ、時間とか平気?家、大学の最寄り駅から2つ目で降りて5、6分のところにあるけど」 「それなら帰り道だし全然平気。時間はやばそうな人から帰れば良いし。逆に遅くにお邪魔して申し訳ない」 「了解。大丈夫だって、別に泊まってもいいし。女の子的に心配だったら佐藤くん無理矢理泊めるから安心して」 「勝手に決めるな、勝手に」 振り向いた藤崎が義人を見下ろしてくる。 「佐藤くん、俺の手料理食べてよ。おいしかったら佐藤くんの負けね」 ニッと笑った整った顔。やたら様になるその表情が気に食わず、義人は馬鹿にしたような笑みで藤崎を見上げた。 「分かった。不味かったら真面目に不味いって言うからな。容赦なく」 「いいよ。その代わり負けたら明日から俺に優しくして」 準備が終わった女子達に呼ばれ、2人もカバンを持ち上げて教室の入り口へ向かう。 「それは無理」 そう言いながら、教室の電気を消した。 大学の最寄り駅近くのスーパーで買い物を済ませ、義人と藤崎で袋を持った。何だかんだ買い込んでしまい、大袋2つはパンパンになっている。 義人達のグループに地元民はおらず、全員定期を持っていた事もあり、発車ギリギリに改札を駆け抜け電車に乗り込んだ。 「一人暮らしってことは、地元遠いの?」 「遠くないよ。東京」 西野の質問に藤崎はにこやかに応える。 身長180センチの藤崎と150後半だろう西野が並ぶと実にお似合いに見えた。 (様になるなあ、、藤崎の好きな人って、誰なんだろ) 里香と藤崎と登校中の話題を思い出す。 一瞬入山かもしれないと考えていた義人だが、藤崎は基本的には誰にでも優しい。人の事を考え、気配りも随分上手く振る舞う人物だった。自分に対してだけは小馬鹿にしてきたりからかってきたりが多いな、と少し呆れる部分もある。たまに本当に気に食わなくて腹が立つ事も。それでも今ではだいぶ慣れた方だった。 席が空いている車両へ移動し、6人で揃って椅子に座る。義人はぼんやりと天井を見上げ、それからまた藤崎と西野の会話に耳を傾けた。 「あ、そうなんだ」 「大学入ったら一人暮らしって、ずっと思ってて。俺の家放任主義だから、全然追い出された」 「あはは。すごいね、ご両親」 義人の隣に座った藤崎は、ぼんやりと天井を見つめる義人を横目でチラリと見る。黒っぽい瞳に電車の窓ガラスが反射する景色がキラキラと映り込んでは流れて行った。 「東京のどのへん?」 「ん?田舎。多分言っても知らないと思う」 「あはは!そうとう田舎だね」 ふわふわ笑う西野。合わせるように優しく笑う藤崎の声を義人は左耳で聞いていた。聞きながら、何だか1人でやるせない気持ちになってきていた。 (アイツ、俺に笑いかけるときはあんだけ性格悪そうに笑うくせにその笑い方はなんだよ) 天井からズルズルと視線を下げ、電車の窓に映る自分を見つける。 「、、、?」 一瞬、窓ガラス越しに藤崎と視線があった。 あちらも窓に映った自分達を見たようだ。自分達、と言うよりは明らかに義人の事を見たのだが、視線はすぐに西野の方へと向き直ってしまった。 (何だ、、?) 「ねえねえ、佐藤くんて兄弟いる?」 左隣に藤崎。そして、反対隣には入山が座っていた。 「え?」 西野と藤崎の会話に聞き耳を立てていた事もあり、入山とその隣にいる片岡や奥にいる遠藤の会話はまったく頭に入っておらず、義人はポカンとしたまま聞き返す。 「ももこと敬子は2人ともお兄さんいるんだって。敬子って何か弟とかいそうな感じだから意外じゃない?ももこは納得だけど」 「それどーいう意味!」 片岡の言葉に入山がけらけらと笑った。 グループで1番小柄な片岡が体を前に倒し、入山を挟んで義人の方を向く。遠藤は耳だけこちらを向いているのだろう。ずっと誰かと連絡を取っているようで、視線は手元の携帯電話から離れない。 「俺は弟いるよ」 そう言えば課題が始まってから何かと忙しくてこんな話題でさえ出たことがなかったなぁと思い返す。初めての課題で緊張してばかりで、ゆっくり夕飯を食べに行った事もなかった。今回がはじめてになる。 課題が仕上がりに近づいてきて、皆少しずつ余裕が出てきたらしい。このメンバーでいるときの表情も大分柔らかくなった。 馴れ合えてきたことは義人自身とても嬉しい。絆が生まれたと思えるようになったのも。そこまで来て、義人は自分と藤崎はどうなんだろうと考えた。普通に関わってくれさえすれば藤崎のことを嫌いになんてならなかったと思っている。 (俺が何か嫌なことをしたのか?) 慣れてきたとはいえ、今日は良かったとはいえ、先程も考えていたように自分に対してのみ藤崎からの態度があからさまに嫌がらせを含んでいるときはまだ多い。 初めて会話をしたあの朝の教室で、藤崎は初めから義人につっかかってきたのだ。特に何もしていない。早く着いた教室で寝ていただけで。 (初めて見た時から俺が気に入らないとか、、でも軍手は貸してくれた。それに、階段で落ちそうになったときも助けてくれたし) ただ単に構ってほしくてからかってきているのか? あんな顔のいい、みんなに好かれている男が自分にそんなに擦り寄ってくるだろうか。ましてや藤崎は頼んでなくても人が寄ってくる性格をしている。構ってちゃん、なんて言う事はきっとない筈なのだ。 (と言うか、俺みたいに頭の硬いノリの悪いタイプ嫌いそうなのによく話しかけてくるよなあ) 本当だったら、タイプが合わな過ぎて友達にもなれそうにない。あまりにも自分と違った、不釣り合いな友人。 (だったら) ゴトン、と大きく電車が揺れる。 誰かが「きゃ」と小さい声を出した。片岡がいるあたりからだ。 (だったら何で俺に構うんだ) ゴトン。 もう一度、大きく揺れた。 「え、意外!お姉さんとかいそうなのに!」 入山の声に、藤崎の方へずらしかけていた視線を慌てて元に戻す。 「え、そう?いないいない。従兄弟とか合わせても俺が一番歳上」 「そうなんだー!」 奥にいる片岡たちも意外だ意外だと言い始める。 藤崎に何かとんでもない事を聞きかけたような気がして、義人の心臓はバクバクとうるさく鳴り響いていた。軽くかいた手汗を誤魔化すようにギュッと拳を握りしめる。 「藤崎くんはー?」 とうとう電車が目的地に着いた。大学の最寄駅からわずか2駅だが、疲れた体を引きずっている以上、座れた事は大いに助かった。 駅について電車から降りると、入山が今度は藤崎に話題を振った。 「ん?なにが?」 まったく話しを聞いていなかったらしい藤崎が穏やかに入山に聞き返す。 (普通にしてたら、もう少し仲良くしてやってもいいのに) 俺に優しくして、と先程藤崎は言ったが、義人からすれば言い返したい言葉だった。お前こそ俺に優しくしろ、と。こうやって会話にも入らず客観的に人と話している藤崎の横顔を見ていると、彼氏にしたいと何人もの女の子が彼の連絡先を聞くことが少しは理解できる。普通にしていれば、藤崎はただの優しいイケメンだった。 「兄弟いる?」 「あー、双子の妹とすごい歳の離れた妹」 「えッ!?双子なの!?」 驚きすぎるくらいに遠藤がリアクションをとる。目の見開き方が尋常でなくて、義人と藤崎、周りの入山達も思わず吹き出して笑い始めてしまった。 「敬子、言いたかないけど、顔、顔。今酷い顔してるから!」 バシン!、とすかさず入山が遠藤の肩を叩いてそれをやめさせる。 「え、うっわ恥ずかしい。え、でも双子?似てるの?」 「全然」 「あー、あれか、二卵性か」 「そ」 言いながら、西野が袋を持とうか?と聞いたのに対して大丈夫だよ、と手で制する藤崎。 「あ。外見は違うんだけど、中身は一緒」 「性格似てるの?」 「面倒くさいくらい似てる」 「会ってみたい!」 興味津々な遠藤が続く。 「俺も会ってみたいわ、お前みたいな性格の女の子」 この男の双子の妹。絶対に顔がいいんだろうな、と義人はひねくれた顔をする。もしかしたら自分より脚が長いかもしれない。 「佐藤くん身長の話しまだ怒ってんの?」 「それと名前とあと、、まあ、色々な」 「ん?、、、ああ、それね」 (童貞だのなんだの言ったの、覚えてるなら謝れよこの野郎は) またヘラヘラと笑いながら藤崎が隣を歩き始めたので、文句言いたげに義人も合わせて歩き出す。持ち上げたレジ袋はパンパンすぎて、重みで持ち手が手に食い込んでくる。 隣を歩く藤崎の手元を確認すると、あちらの方が大きいペットボトルが2本入っている分、痛そうなくらい持ち手が食い込んでいるのが見えた。 「藤崎、交代しろ」 「え?」 お互いのレジ袋をサッと取り替えると、重さの違いに気がついた藤崎は嬉しそうに微笑んだ。 「優しいな、佐藤くんは。ありがとう」 「別に。段ボールの借りを返しただけ」 「ヒュー!さりげなーい!かっこいー!きゃー!」 「お前おちょくってんだろ!やめろそう言うの!」 ニヤニヤと笑う藤崎の尻を、右脚でバンと軽く蹴った。 「いて」 「ざまあ」 そのまま改札を出る。 駅前はファストフード等の店舗の明かりで賑わいが感じられる。義人達が出た南口には商店街もあった。反対に、北口は静けさたっぷりの住宅街で埋まっている。 「こっちこっち。あ、そうだ佐藤くん」 「なに」 ペットボトル2本はなかなかの重さで、義人の軟弱な腕だと肩が右側に傾いてしまって仕方がない。藤崎が持っていたときはそんな事はなかったのに、と筋力の違いに少し悔しい気持ちが芽生えていた。 「写真ならあるよ」 後ろに女子が続き、義人と藤崎は1番前を歩いている。駅前は飲み屋もあったが、南口周辺も駅から少し離れるとすぐに住宅とまばらに畑が見え始め、あれ程あった明かりも遠のいて、街灯頼りに暗い道路を歩く事になった。 「誰の?」 「俺の、双子の」 そう言って、ポケットに入っていたスマホを取り出す。パシパシと画面を操作し、目当ての写真が見つかると義人の目の前に藤崎の携帯が突き出された。 「ん。コレ」 「ん?」 目を細めて画面を見つめる。 「あ、私も見たい!」 隣に遠藤が並ぶ。藤崎から受け取ったスマホの画面を、義人と遠藤で覗き込んだ。 「え、この子!?」 「うわメッチャ美人!!」 興奮状態覚めやらぬまま、遠藤が義人の耳元で叫ぶ。確かに、美人だ。 画面の中の画像は、モデルのような抜群のスタイルに、藤崎に良く似たニヤリ笑いをしているやけに顔のいい女の子と、その子に腕を組まれて横に並んでいる藤崎の自撮りの写真だった。 「ってゆーか美男美女すぎるね!佐藤くん、これは犯罪だよ犯罪!!」 「顔だ、け、は、良いからな。藤崎って」 「佐藤くーん。聞こえてるー」 「うっせー黙れ」 後ろから足音が近づいて来て、片岡達も画面を覗き込む。 「ぎゃー!可愛い!!」 「わー!え、これ隣藤崎くん?」 「そう」 「いひゃー、、2人ともモデルみたい」 確かに藤崎もスタイルがいい。スタイル、というよりも体格かもしれない。細身に見えてガッチリしているし、背も高い。胴ではなく腕と脚が長いのだ。 「ねえねえ、佐藤くんの弟さんの写真はないの?」 「え?、、あー、あるある」 「見せて!」 いつの間にか藤崎の前に片岡が陣取り、義人の隣に並んでいる。片岡のリクエストに義人は自分の携帯電話をポケットから取り出し、持っていた藤崎の携帯を遠藤に渡した。 「、、、ん、これ」 麻子との写真もあり、アルバムの中はあまり見られないようにさっさと1年前程の写真が保存してある部分までスワイプすると、弟である昭一郎(しょういちろう)の誕生日会の写真が出てきた。実家近くの行きつけのレストランで毎年出してもらうお決まりのケーキを前に、こちらにピースサインを送る弟の姿だ。 「え、、コレ、弟さん?」 「ブッ!!大人っぽ!佐藤くんの方が幼く見える!メッチャさわやか系!」 片岡と遠藤が笑い始め、入山と西野も写真を確認し、同じようにな感想を述べていく。 「それよく言われる。爽やかかは分からんけど」 「俺も見たい」 「お前は見なくていい!つーかスマホ、遠藤がずっと持ってる」 持っている事を忘れていた遠藤が「そうだったわ」と藤崎を振り返って携帯を渡す。その間も、義人の携帯を覗き込みたい藤崎は片岡の上から少し身を乗り出したり、義人の携帯の画面が見える位置を探していた。 「忘れてた、ありがと。佐藤くん写真見せてよ」 「忘れんなよ。ん、これ」 子供のように見せてを連呼され、呆れて携帯の画面を藤崎の顔に向ける。 「あ!本当だ。佐藤くんより大人っぽいね、弟くん」 「だからもう言われ飽きてるって」 それでも藤崎に言われるのだけは、何故か物凄くむかついた。

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