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第11話「好み」
「はーい、買って来たよー」
「おかえりー!あーりーがーとー!」
結局、藤崎の家に泊まる事になった。
楽しいから帰りたくない!という遠藤の提案で、先程藤崎もたまに行く近くの銭湯に全員で行って来て、そのまま藤崎の家に宿泊が決定した。
それぞれ親の了承は取ったが、西野だけは母親が「男の子のお家はダメです!」とのことで、謝りながらも帰っていった。
残ったのは義人と入山、片岡と遠藤。そして、部屋の主である藤崎。
「佐藤くん甘いもの平気だった?」
「うん。普通に好きだよ」
片岡と藤崎がじゃんけんで負け、近くのコンビニに行って買って来たデザートを全員であさり始める。時刻は23時半を回っていた。
「私プリンー」
遠藤がさっさとプリンを取っていく。あと残っているのはあんみつ、善哉、エクレア、それから何故か、飲むイチゴのヨーグルト。
「あ、コレは俺ね」
そう言って、飲むイチゴのヨーグルトを藤崎がひょいと取り上げた。ソファに座っている義人の隣には、今度は入山が座っている。藤崎は空いていた義人の足元にあぐらをかいて落ち着いた。
「佐藤くん何がいい?」
片岡がレジ袋を広げて中身を見せてくれる。
「私あんみつ」
「いりちゃんあんみつね、佐藤くんもあんみつがいい?」
「いやいいよ。片岡がいいなら入山にあげて」
「じゃあいりちゃんどうぞ」
「サンキュー!」
コンビニに行った2人を待っている間、残っていたビールを胃に流し込んだ入山は酔っ払ったテンションで片岡からあんみつを受け取ると、「ありがたや〜」と呟きながらプリンを持っている遠藤とスイーツを掲げながら崇拝を始めた。
遠藤と入山がグループ内で特に気が合う理由がよくわかる。どちらもテンションが高いと手がつけられなくなりそうだ。
「佐藤くん先選んで」
「片岡が好きなの取っていいよ。俺残り物でいい」
「いいの?じゃあエクレアください」
本当にどっちでも良かった義人はそのまま残った善哉とプラスチックのスプーンを片岡から受け取る。見計らったように、藤崎がさっさとレジ袋をたたんだ。
「おいしー!」
「うまいっ!」
入山と遠藤がじゃれあいながらそう叫ぶ。無論、もう結構な時間なので近所迷惑を考えた小さな叫びだった。
「おいしーねー」
ズゾゾ
「そうだね!」
ズゾゾ
「いやいやいや、藤崎くん。その音だけ響くとシュールすぎるわ」
「ん、ごめんごめん」
「いやいや、いいんだけれども」
飲むヨーグルトは吸うと中々の音が出るようだ。
遠藤は良く喋る。今この会話がなくなりつつある義人達の雰囲気からしてとてつもなく必要な存在だった。
「えーと、、なんか話題ないの」
「そういう楓はないの」
入山と遠藤が騒ぎ始める。
夕飯も風呂も済ませ、あとは寝るだけと言う状態と体の暖かさからか全員が少しゆったりした気分になっていた。満足した分、頭の回転が遅くなっている。
しばらく流しているテレビをぼーっと眺め、芸人のギャグにたまに笑う。20分程そうした後に、黙り込んでいた片岡が意を決したような顔で皆を見た。
「あの!」
「ん?」
「なに、ももこ」
何故かグッと肩に力を込め、握りしめた両手を構えて口を開く。
「敬子ちゃんもいりちゃんも、藤崎くんも佐藤くんにも、聞きたい事があります!」
「ん?」
なんだか興奮気味の片岡を目の前に、全員でそちらを向く。
「好きなタイプを、教えてください!!」
そしてその発言に、全員で「は?」と言う表情になってしまった。一瞬、皆んなが黙り込む。
「、、なんで?」
恐る恐る入山が聞く。
「えー、だって恋バナしたい」
長くしなやかな黒髪は手入れが行き届いていて、重めのパッツンに切られた前髪もサラサラと良く揺れる。小柄な体はサイズに合わせたように手足が細く、肌は白い。片岡ももこ(かたおかももこ)は絵に描いたような甘い童顔の女の子だった。
「背の高い人」
1番に、遠藤はすんなりと答えた。
恋バナなんて言うものをするのは義人は久々だ。何せ興味がない。そして、麻子と言う存在ができてからは誰が好き?好きな人できた?等と聞かれる事もなくなり、余計に機会が減ったのだ。
「え、低い方が良い」
意外な答えを返したのは入山だった。
「あー、楓の彼氏小さいよね」
「何その言い方!」
「玉も小さそう」
「下ネタかい!」
やめなさい!!っとツッコミたいところを義人はグッと我慢した。彼はあまり女の子の下ネタに対する耐久が無い。対して隣の藤崎はヨーグルトを飲みながら笑うのが見える。
「ももこは?」
「え?」
「高いのと小さいの」
「んー、どっちでもいいかな?自分より高ければ」
「なるほど」
この手の話題になるとどんどん会話が増えていく。片岡は楽しげにニコニコとしながら、テーブルに乗り出して肘をつき、手のひらの上に小さな顎を乗せた。さながらアイドルのポスターのようだ。
「ではでは、気になる男子諸君は?」
妙な言い回しで、遠藤がニッコリと笑ってこちらを向く。にしし、と特徴的な笑い声が聞こえた。
「佐藤くん彼女いるんだよ」
「え、そうなの!?」
意外だったらしい藤崎の発言に声を上げたのは遠藤だが、片岡も目を見開いて驚いている。
義人としてはそれが気に入らず、少し困ったような笑みを浮かべた。隠していた訳でもないが、なるほど、確かに恋愛の話題はあまりグループで話していなかった。
「どんな子?」
遠藤が身を乗り出してくる。それに続いて、片岡もズイ、と前に迫ってくる。
「えーと、いや、普通」
「普通がわからん!」
バンバン、と軽くテーブルが叩かれる。
「美大生、大学はうちじゃないけど、あと静かで、頭よくて、、?」
「ほほーう。写真は?プリクラとか」
「あー、ない」
「ええ!?」
「俺がそういうの嫌いだから撮らなかった」
「ああ、、何か納得」
笑いながら遠藤が乗り出していた身を引いていく。本当は何枚か写真があるのだが、見せるのは何か良くないなと思い伏せておいた。片岡は何か考えるようにして義人を見つめ、それからするりと視線を外して藤崎の方を向いた。
「藤崎くんは?」
その視線の移動に釣られて義人が藤崎の方を向くと、一瞬バチリと目が合った。
「ん、、?」
小さく、息をついたように見える。
「ん、俺?えーと、何だっけ、」
「好きなタイプ」
入山が興味がなさそうに携帯をいじりながらそう言う。
「あー、何だろうね。しつこくない人?」
「うわ、あからさま斉藤さんを暗示させるね、君」
呆れたように遠藤とがため息をつくと、藤崎は怪しくニヤッと笑いながらそちらを向いた。
あからさまに斉藤の事を言っているな、と言うのは何となく全員察しがついていた。
「そんな気無いよ」
「あはは!あからさまじゃん、何言ってんの!」
携帯をテーブルに置いた入山が高らかに笑う。
「あとは?可愛い系?美人系?っていうか、あれ?藤崎くん、彼女いなかった、、?」
聞いていいのか分からないような顔で片岡はオズオズ聞いたが、藤崎は構わないようでニコリと笑い返す。先程までの不審な笑みは消え去っていた。
前の彼女と別れている事を既に知っている義人は一度自分の携帯電話を確認する。麻子からの連絡は特に来ていない。
(やっぱり藤崎って、何か有名なんだなあ、、まあイケメンだからか)
藤崎は高校で有名な賞を取った、等の経歴は特にない。ただ通っていた高校ではやはりどの学年にも人気のある、女子達の憧れの的ではあったようで、大学に入ってすぐに同じ高校や中学だった友人から話を聞いた他の美大生達が彼を有名にしていった。足立弥生と言うモデルと付き合っていた事も知れ渡っており、それも含めて有名だったようだ。
「弥生とは別れてるよ」
「あ、そうなんだ」
「前々から思ってたんだけど、お前凄いよな。元カノとか全部知られてて」
嫉妬や妬みではなく、少し気の毒に思えて出た発言だった。これだけ多くの人が自分の事を知っていると言うのは、中々に疲れそうだな、と。
飲み終わったらしいヨーグルトの容器をテーブルに置いて、少し考えるようにしてから藤崎が口を開く。
「俺、というよりも、弥生が有名だっただけだろ。その前の彼女とかも」
藤崎なりに、その辺の事は割と関心がなかった。
モデルだからと言う理由で付き合った訳でも、有名になりたくて付き合った訳でもない。
「知ってるー。あれでしょ、長谷川未来」
「だれ?」
「弥生ちゃんとは違う、ティーンエイジっていう雑誌のモデル。最近テレビ出てる」
「うわ、俺そういうの全然知らないわ」
義人が苦笑いをすると、「だろうねー!」と遠藤に笑われる。
どことなく藤崎を横目で見ると、何故か居心地の悪そうな顔をしていた。
「あと付き合ったのってどんな子?」
会話をしようと、俺がそう言う。
「んー、あんま元カノの話しとか、してもなあ〜」
ばつが悪そうな顔だ。
「あー、そうだよな、ごめん。他の女子もいるし」
「ん、、んー??まあ、それでいいや」
藤崎としては、義人がいる前であまりそう言う話をしたくなかったのだが、義人が気がつくわけもなく、サラリとそう言われる。
「え、なに?」
義人自身も気を遣って言ったのだが、2人の考えが重なる事はなかった。
少しガクッとしながら、藤崎はまた小さくため息をついた。
「何でも」
見上げた義人の顔は、やはりポカンとしていた。
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