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第14話「朝食」

その日、義人は変な夢を見た。 いつの間にか、藤崎が目の前にいる。 別に驚きもしない自分と、何となく寂しそうな顔をする藤崎。頬に添えられた温かい手にすり寄りながらうっとりと相手を見上げた。しばらく見つめ合ってから、どちらともなく口づける。 それは妙にリアルで、薄くて形のいい藤崎の唇の感覚まで全部伝わってきてしまうような、そんな夢だった。 「、、、いやいやいや、なんつー夢だよ」 目を開けて数秒。 なんともまあ馬鹿げた夢を見たな、と真っ白な天井を見上げながらため息を漏らした。 「あれ?」 仰向けのまま、ぼやけが取れた視界に藤崎の姿を入れようと横を向いたが彼はおらず、仕方なくスマホを取って時間を確認した。 6時54分。 アラームは7時にセットしたというのに、その前に目が覚めたらしい。 ガチャ ドアを開けてリビングに出ると、昨日の服のままの皆がいた。 「おはよー佐藤くん。ビリだね」 「うわー、全員俺より早く起きたのかよ」 部屋中に立ちこめるいい匂いと、もう化粧も済ませている女子グループ。 カウンターの前に立ってキッチンを覗けば、コンロに向かう藤崎の姿が見えた。 「ッ、」 先程まで見ていた妙にリアルな夢のせいか、義人は自分1人で気まずくなってしまった。2人きりで寝るなんて事をしてしまったから、あんな夢を見たのだろうか。 「ん。佐藤くんおはよ」 「え、あ、おう。うん、おはよ」 「?」 こちらを向いた藤崎にニコリと笑いかけられ、焦ったようにゴニョゴニョと返事を返す。 藤崎が扱っているフライパンの上には、カリカリのベーコンとほうれん草、コーンのソテーが見えた。手前のカウンターの上に並べられた大皿には既に人数分の目玉焼きとソーセージが盛り付けられている。 「あ、うまそ」 「つまみ食い、する?」 「いいの?」 「ん、」 そう言って、菜箸で細かく切られたベーコンとほうれん草をつまんで、ふー、と息を吹きかける藤崎。図らずも藤崎の唇に視線が移ってしまい、ドキ、とまた義人の胸が高鳴る。 (変にリアルな夢だったなあ、、) 思い出すのも恥ずかしい程に、感触すらよく分かる夢だった。 「ん、いいよ。はい」 「え、」 「口開けて。放り込むから」 「あ、はい」 ポカ、と開けた口にひょいと入れられるベーコン。何も味のなかった口の中に、じゅわりと旨味の溶け出した脂の味が広がる。パリパリに焼かれ少し噛みごたえのあるベーコンと、脂を吸ったほうれん草のくたっとした食感が混じる。 「うま!」 「だろ」 程よい塩味も相まって、何とも美味しい。ニッと笑った藤崎が、カチッとコンロの火を消した。カウンターの上の大皿に、出来上がったソテーを菜箸でサッと乗せた。 「パン?ご飯?」 「私パン!」 「パン」 「パンかなー」 「俺もパン」 全員パンと選択。大皿を昨日使った丸テーブルに運んで数分すると、全員分トーストできたパンをそれぞれ皿に乗せて朝ご飯になった。 「っていうか超豪華だね、藤崎くんの朝ご飯」 「今日は気合い入れてるだけだよ」 「そうなの?ほんと料理うまいな〜」 もぐもぐ食べている遠藤。入山はトーストが熱いのか、持たずに皿に乗せたまま地味な食べ方をしている。片岡は藤崎が持って来たジャムを綺麗に表面に塗った。 「あ、そうだ。昨日の夜女子でちょっと話し合ったんだけどさ、」 入山が昨夜の内に女子だけで話し合った課題の改善点を話し始めると、義人と藤崎も聞きながらそれぞれ意見を言う。兄弟が増えたような朝食の席はにぎやかで、楽しいものがあった。

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