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第45話「幸せ」
「ん、?」
ごろり。
仰向けになって、見慣れない天井を見つめる。
ぼやけていたそれが段々とハッキリと見えてきて、自分の部屋じゃないと確認できた。
「、、あ、れ?」
昨日は確か、、と義人はまだ眠たい思考を回転させる。
「ッッ!!」
(藤崎とヤったんだった!!)
思い出した瞬間に、バッと隣を見る。だがそこに藤崎の姿はなかった。
「あれ、、夢?」
けれど彼は裸でそこに寝ている。使ったローションのボトルが棚の上に置かれているし、腰の痛みもある。
「起きた?」
「わっ!」
声のする方に目をやれば部屋の入り口は開け放たれていて、お盆の上に何かを乗せて、にっこりと笑いながら立っている藤崎が見えた。
「腰辛いだろうから、今日はベッドの上で朝ご飯にしようか」
そう言って部屋の中に入ってくる。すでにカーテンは開けられており、心地いい朝日が薄いカーテン越しにゆらゆらと差し込んできていた。
「っていうか、何時!?」
「まだ平気。ちゃんと計ってるから、安心して」
藤崎がベッドの傍まで来ると、義人は急いで起き上がろうして腰に違和感を感じる。
「いっ、、うーッ!」
「だから言っただろ。腰辛いだろうからって」
「なんだよこれめちゃくちゃダルいじゃん!」
重たい。そして、無理に動かそうとすると、一瞬グッと痛くなり、明らかに身体にだるさが回る。
ベッドに伏しながら手をついて、義人は藤崎を睨み上げてギリギリと歯を食いしばった。
「ごめん。初めてだったのに、あんなにがっついて」
「はじ!?い、いや、そうだけど、、」
(確かに初めてか)
ベッドのふちに腰掛ける藤崎と、何とか起き上がった義人。すぐ傍に座っている藤崎が膝の上に朝食のトレーを乗せ、片足だけベッドの上に上げて義人の方を向く。
「っつーか、何でお前、上の服着てねえんだよ」
「そっちもだろ。まあ佐藤くんは上も下もだけど」
「あ、うわっ、いやらしい目で見んな!!」
ギャン!!と吠えてくる義人を軽く笑い飛ばし、藤崎は自分の分のコーヒーが入ったマグカップを手に取ると呑気な顔をしてひと口飲む。
香ばしく芳醇な香りが鼻に抜けた。
「着せようかな、とも思ったんだけど。ほら、なんかこの方が、ヤッた後の朝って感じでよくない?」
「よくない!!配慮しろ!!」
「ははは!ヤる事ヤっといて今更何言ってんの〜」
キレても無駄なようで、藤崎は涼しげな顔でかわす。義人は昨日の自分を思い出すと少し気恥ずかしかったが、藤崎の気にしなさを見てどこか安堵していた。
これが、段々と自分達2人のペースになっていくのだろうと感じられたのだ。
「あー、もういい。腹減った」
「ん、どうぞ。朝ご飯」
「、、ありがと」
藤崎はやたらと義人に尽くすタイプの恋人になるようだった。完全な甘やかし体勢で隣に座っている。トレーの上の皿に乗っているのはトーストと小盛りのサラダ、目玉焼きとソーセージだった。
「あ、佐藤くん」
「ん?」
トーストを食べようとした瞬間に、名前を呼ばれてそちらを向く。ベッドに食べかすが落ちるのが嫌で、義人は藤崎からもらったティッシュを何枚か膝の上に敷いた。
呼ばれるままに向いた方へいた藤崎は、ベッドに手をついてグッと義人に身を寄せる。
「おはよう、義人」
「んっ」
ちゅ、と軽く口づけられた。
「なッ!?」
「はいごちそーさま、はいいただきます」
そう言って、自分の分のトーストにかじりつく藤崎。義人は朝から耐性のない事をされ、またじわじわと顔が熱くなった。
「キザかッ!カッコつけか!!」
「残念。俺ずっとこれ妄想してたから、夢叶えただけ」
「はあッ!?」
乙女的なのか紳士的なのかよくは分からない。
ふわ、と嬉しそうに笑う藤崎を見て、義人の心臓はまたトクントクンと優しく熱く鼓動している。
2人だけの空間にいると、藤崎はどこまでも義人に優しく、普段見せない程に警戒心を解いた素のままに笑う。
(、、まあいいか。嬉しそうだから)
そして惚れた弱味なのか、義人もまた2人きりだとどうしようもなく藤崎を受け入れられた。
「あ、そうそう。滝野とりいと入山さんにはもう言ったから」
「、、ん?は?」
「付き合いましたって」
「はあッ!?」
5月に入る手前、ギリギリ滑り込んだ4月最後にできた恋人。よく晴れる春に付き合いだした、5センチ身長差のある2人。
「まあまあまあ、いいからご飯食べよう、ね!」
「良くない良くない良くない!!」
朝からギャーギャーと騒ぎながら、これから課題の最後の講評に向かう。
講評中もずっと、2人が隣から離れる事はなかった。
佐藤義人は、藤崎久遠を好きになった。
第1部、終わり。
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