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【2】いきなり、アサインされました!……②
「ん……」
視界が揺れる。目の前がぼんやりしているのが分かった。
頭が痛い。
自分の周りを青い服を着た人々が囲んでいる。それぞれ別の動きをしていて、忙しなく働いている様子が見えた。
扇風機が三台、自分の方に向いている。腕と脚に点滴のチューブが繋がり、全身がびしょびしょの布で覆われ、保冷剤のようなもので体のあちこちを冷やされていた。点滴まで保冷剤で冷やされている。
なんだこれ。
冷やし点滴はじめました、みたいだな。
夢だろうか?
熱中症の治療がこんなにもアナログなものだとは知らず、陽向は笑いが込み上げてきた。
「……意識が混濁してますね」
「バイタルは安定してるが、急性腎障害が心配だな。念のために透析が行えるようにICUに連絡 しておいてくれ」
「分かりました」
青い服の背中を見ると白抜きでエマージェンシーの文字が見えた。どうやら自分はまだ死んでないらしい。ここは病院のERだろうか? 生きているのが分かって安堵する。
「それにしてもあの着ぐるみ……最悪でしたね。脱がしきれなくて整形外科 に電動ノコギリ借りたの初めてですよ。それも三人掛かりで……」
「処置室でアヒルの解体ショーしたのも初めてですけどね」
若い医師二人が楽しそうに笑っている。
「スーツ姿の男性は大丈夫だったの? なんか、ピヨたんがピヨたんがって、叫んでたけど」
「ピヨたんってこの患者のことですか?」
「そうらしいな。全く、あの男の方が意識混濁してたよな」
「ぷっ。ホントですよね」
年配の医師も同じように苦笑している。
あの男とは周防のことだろうか。
まさかな、と思う。
周防はいつだってポーカーフェイスで冷静沈着な男だ。陽向のことで取り乱すはずがない。
それよりも陽向は、祝賀会のことが心配だった。クライアントである東洋製薬に迷惑を掛けなかっただろうか。製薬会社の創業記念祝典に救急車が来るなんて本気で洒落にならない。
何事もなく終わってればいいが……。
また意識が遠のく。
ポピー畑の中で楽しそうに踊っているピヨたんがいた。そのふわふわの手が千手観音のように重なって見えた。
処置を終えた陽向の体は救急救命センターから一般の病棟へ移されたが、陽向にその自覚はなかった。夢うつつの中、病室のベッドの脇に誰かが立ち、大きな手で頭を撫でられた気がした。温かくて体がふわりと浮くように気持ちがよく、全部、夢だと思った。
なんか、優しいな。
――ばあちゃん……。
死んだ祖母が慰めてくれた気がして、陽向は深い安堵の中、眠りについた。
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