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【3】裏の顔はオカン系男子!?……③
陽向の出向先はハイランド・コーポレーションのビルディング事業部門だ。ハイランドはグループ企業を十五社以上持つ大手デベロッパーで、不動産業はもちろん都市開発や商業施設のマネジメントまで行っている。今回、EKコンサルティングに依頼された内容は、貸しビル業における経営戦略立案と経営改革だ。ハイランドの他の事業は上手くいっているが、貸しビル業だけは業績が悪く、その改善と新たな改革を求められている。
日本橋にある本社ビルに向かうと自分の席が用意されていて驚いた。EKはフリーアドレスのため自分の席はない。縄張りではないが自分の作業スペースがあるのが想像以上に嬉しかった。首から掛けるタイプの社員証もリーマンぽくてなんかいい。自分用のデスクを撫でながらニヤニヤしていると後ろから声を掛けられた。
「コンサルタントの……確か、入中さんですよね? ああ、驚いたな。EKの人が来るって聞いてたから、スカしたエリートが来るのかと思ったら、ふわふわ系の人で……しかも若いっすよね? 俺と同じくらいですか?」
「お世話になります。アソシエイトの入中と申します」
「や、ご丁寧にどうも。俺、菅伊久馬 って言います。スガちゃんって呼んで下さい」
名刺を渡して陽向が頭を下げると、男も照れくさそうに頭を下げた。
主要なスタッフとはプロジェクトのキックオフミーティングで顔を合わせていたが、実際に働いている社員と顔を合わせるのは今日が初めてだった。
「あ、うちの社員証だ。実地調査するとかって本当なんですね。驚いたなあ」
「弊社のマネージャークラスはハイランドさんの社内推進役とともに仕事をしますが、俺たちアソシエイトはハイランドさんのオフィスだけではなく、そのユーザーがいる現場に行けと上から命令されているので」
「え? 営業に出るの?」
「そうです。ですので、どうぞよろしくお願いします」
「マジかあ。俺につくんすよね? 参ったなぁ……」
菅は驚きながら頭を掻く仕草をした。訊くと陽向と同じ入社三年目のニ十五歳で、笑顔と営業成績のいい、明るく鷹揚な男だった。すぐに親しくなり、社内の色々なことを陽向に教えてくれた。
「うちはメジャーセブンの中でも、貸しビル業の収益が最下位なんすよ。ちゃんと営業してるはずなんですけど、なぜかいいテナントに入ってもらえなくて。他の事業の営業ノウハウがまるで利かないっていうか、とにかく人気ないんすよね」
「そのようですね。お願いしていた資料を出して頂いても構いませんか?」
「あ、もちろんです。それと、敬語じゃなくてもいいっすよ。俺、ヒラだし」
陽向がお互い砕けた感じでいきましょうか? と言うと、菅は人懐っこい顔で笑った。
「そのネクタイ可愛いっすね」
「そうかな?」
「凄く似合ってます。新人営業マンみたいっすよ」
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