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【3】裏の顔はオカン系男子!?……②
「入中、今日から出向か?」
「あ、そうです。周防さんもですよね?」
「ちょっとこっちへ」
朝のミーティングを終えてフロアをウロウロしていると周防から声を掛けられた。部屋の端へ連れて行かれる。
「緊張してるのか?」
尋ねられて驚いた。自分ではそんなつもりはなかった。何か不安にさせるようなことがあったのだろうか。
「あの、特には――」
「そうか?」
「はい」
なんだろう。じっと見つめられる。長い睫毛が綺麗だなと思った。
「確かに常駐型のプロジェクトは久しぶりなんで、いつも以上に気合いは入ってますけど、アソシエイトとして精一杯頑張ります。必ずバリューを出してみせます。周防さんもあちらのメンバーなんですよね?」
「そうだ」
今回、陽向がアサインされたプロジェクトは常駐型と呼ばれる、クライアント先の社員になって調査を開始するものだ。社員証はもちろん社内でのポジションも確保されている。実際にその企業に身を置き、社員にインタビューを重ねながらデータを集め、問題解決方法を導いていく。
「入中……」
「え?」
急に頭の上に大きな手を置かれて驚いた。体が固まる。
これは俗に言う、いい子いい子なのだろうか? 意味もなく頭をよしよしと撫でられる。じっと見つめられながらのそれは、母猫が仔猫にするグルーミングのように繊細で優しかった。
ボーッとしているとただ寝癖を直されたのだと分かった。ついでのようにネクタイの歪みも直される。
「不動産会社の営業マンなんだから、もう少し爽やかな感じを出せ」
「はい……」
「茶色のスーツにタータンチェックの青のネクタイって、センスがイギリスのコメディアンみたいだな……」
「駄目ですか?」
凄く可愛いと思ったのにショックだ。
「そうだ、俺のネクタイを貸してやる」
周防は自分のロッカーから青のレジメンタルタイを出してきた。抵抗する間もなく、ネクタイを取りかえられる。しゅるしゅると心地よい音を聞きながら、これはなんだと思った。
もの凄く世話を焼かれている。
お母さんみが強い。
けれど、周防の表情はクールな鉄仮面のままだ。
やっぱり、この男のことが分からない。何か意図があって陽向の世話を焼いているのだろうか。
「これでいい。若手の爽やかな営業マンに見える」
「あ、ありがとうございます」
陽向が礼を言うと、周防は微かに頷いた。
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