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【3】裏の顔はオカン系男子!?……①

 奇妙なランチから数日後、陽向は本格的にプロジェクトに入った。  大手不動産会社である「ハイランド・コーポレーション」の経営戦略立案で、ファクトパックと呼ばれるリサーチ資料作りを任されている。それについては周防とカンファレンスで話し合っており、プロジェクトの管理表であるガントチャートもすでに提出済みのため、スムーズに着手できた。  そもそも、コンサルタントってどんな仕事なの? とよく尋ねられる。  陽向の会社は総合系コンサルティング会社(ファーム)のため、コンサルの基本である戦略系と呼ばれる経営戦略の策定や経営改革はもちろん、業務系だけに留まらずIT・人事・金融に関するプロジェクトも行う。簡単に言うとコンサル界のなんでも屋だ。  その幅広さのせいか世間では「妙なカタカナ言葉を駆使して無責任に助言する集団」「セレブ専用の高級な占い屋」「パワポ大好きの変人の集まり」などと揶揄されることがある。  難しいことはない。コンサルの仕事はクライアントを儲けさせること、幸せにすること、この二点だけだ。  コンサル業はよく「企業のドクター」と呼ばれるが、確かにその通りで、病気に罹った会社を診察し、なんの病気に罹患しているのか、どんな理由でその病気になったのかを調べ、適切な治療をし、健康体に戻すのが主な仕事だ。健康維持や更なる健康体を目指すこともある。  どんな企業でも必ず業績悪化という病気に罹る。放っておけば死、つまり経営破綻する。簡単な風邪ぐらいなら社医(自社の専門家)で治せるが、大掛かりなオペが必要な病気の場合、自社の専門家では賄えきれなくなる。そんな時、必要とされるのがプロのコンサルタントなのだ。  決して、高いスーツを着て、ハートマンのアタッシュケースを持ち、妙なカタカナ語で煙に巻きながら、ガラス張りの会議室で机上の空論を助言しているわけではない。仕事の内容は土着的で泥臭く、特に陽向と同じアソシエイトの仕事は、縁の下で業務を続ける張り込み中の刑事に近いものがあった。  陽向はこれまで、ファストフードの店員に扮したり、家電メーカーの工場の作業員になったり、大手建設会社の建設現場に足を踏み入れたこともあった。あるシューズメーカーでは一つの工場の労働生産率と稼働率が悪く、原因を探るため入ったところ、工場の中に変な段差があり、作業員が皆そこで躓くため、生産率が落ちていることが分かった。  丁寧なヒアリングと面接調査(インタビュー)、データ収集と分析、課題解決方の策定、最終提案と実行支援――。この流れの中でディレクターとPM、アソシエイトが協力しながら仕事を進めている。全てはクライアントの幸せのためだ。  段差の案件は冗談のような話だが、どんな些細な問題に対しても根気強く調査分析を行い、真の問題を特定し、そこから答えを見つけるのがコンサルタントの仕事だった。

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