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【12】優しく触れて……①

 次の休みにプールへ行こうと周防から誘われた。  ハイランドレディの朝井とナレッジグループの秘書室長である赤羽が会員制のジムで密会していることが分かり、その癒着の現場を押さえるため、二人は前もってジムに会員登録することを決めた。  週末、二人はスポーツショップでトレーニングウェアと水着とタオルを買った。反論の余地もなく全てお揃いにされる。特に異論はなく、そのまま会員制のジムに向かった。  中に入るとスポーツクラブらしからぬラグジュアリーな雰囲気で、シンプルな黒の大理石のフロントの奥に、上品な制服を着たスタッフが立っていた。金属のネームプレートにはアルファベットで名前が記されている。適度な間接照明がなされ、気にならない程度の音でクラシックが流れていた。想像していたイメージと何もかもが違う。  フロントで入会の手続きを済ませてロッカールームへと向かう。  その間も周防は建物の中を細かくチェックしていたが、陽向は緊張のせいでそのことに気づかなかった。 「なんか凄く豪華ですね」 「そうだな。セキュリティもしっかりしている」  更衣室もロッカーも広々として大きかった。  周防がおもむろに服を脱ぐ。わずかにオスっぽい汗の匂いがした。迷いのない豪快な脱ぎっぷりにどぎまぎしてしまう。  考えてみれば周防の裸を近くで見るのは初めてだ。今まで何度も抱き合ってきたが、素肌で触れ合ったことは一度もなかった。  陽向は少しだけ脱がされたりもしていたが、凄くドキドキする。  思わず目を逸らした。 「とりあえずプールに行こう。施設の奥からチェックしたい」 「……あ、はい。そうですね」  お揃いの水着に着替える。本当はスパッツタイプがよかったが、周防が選んだのはショートボックスタイプ――ピタピタの短パンで股間が異様にもっこりするやつで、それも気恥ずかしかった。周防の張り出した股間を見て心臓がどくんと波打つ。いやいや、それなんかもう、もっこりしすぎだろ。平常時でそんななのか。 「上から下まで全部お揃いで……ゲイカップルみたいですね」 「事実だろう?」 「それは、そうなんですけど……」  周防は気にならないのだろうか。  陽向も別に、周防との交際の事実を隠すつもりはないが、まだ実感が湧かなかった。ゲイと言われてもよく分からない。男が好きなわけではなく周防が好きなだけだ。 「準備できたか?」  水着姿でタオルを肩に掛けた周防がこちらを振り返った。男の全容が見える。  ――わあ、凄い……。  スポーツブランドのポスターのようだった。  手脚は長く、太腿には美しい筋肉がついていて、広い肩幅の下に滑らかな胸筋と六つに割れた腹筋が覗いている。見事な体だった。惚れ惚れしてしまう。 「凄い……腹筋がシックスパックですね」 「入中はぽよんとして可愛いな。ワンパックだ」 「ワンパック……」  大関かよと突っ込んで、それほど太ってないと訂正する。だが、筋肉がついていないせいで確かにワンパックな腹だった。 「これから頑張って鍛えます」 「入中はそのままでいい。可愛いからな」 「甘やかさないで下さい」 「駄目だ。甘やかすのが俺の役目だ」 「なんなんですか……もう」  くだらないやり取りをしながらプールへ向かう。  中に入ると、整備された二十五メートルプールとエクササイズが行えるような流れるプール、大きさの違うジャグジーが二つあった。奥にはサウナとミストルームもある。 「さて、ピヨたんを流そうか」 「え?」  周防が満を持しての微笑みを口元に湛えている。

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