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【12】優しく触れて……②

「この日を夢見ていた……」 「へ?」 「可愛いピヨたんを浮き輪に乗せて流す。これがホントのラバーダック、浮き浮き(ウキウキ)アヒルちゃんだ。ようやくその夢が叶う時が来た」 「え? ちょっとま――」  周防は天下を取ったような顔をしている。レンタルの棚から大きな浮き輪(フロート)を借りると、プールに投げ入れた。そこへ楽々と陽向を乗せる。陽向がゆっくりと流れ始めた。周防はそれに付き添うように浮き輪の端につかまってついてくる。 「ああ、俺のピヨたんがそよそよと流れている。死ぬほど可愛い……」 「も、もう……やめて下さい」  周防は流れピヨたんだと喜んでいる。  恥ずかしくてたまらなかったが、周防の無邪気な笑顔に楽しいならいいかと、陽向は次第に受け入れ始めた。  周防に半ば抱かれる形でふわふわとプールの真ん中を流れる。水の冷たさや飛沫の刺激が心地よく、一周する頃には自然と笑顔になっていた。  周防がバタ足で浮き輪を押してくれる。推進力がついてさらに前に進む。陽向が歓声を上げると、周防がまた押してくれた。浮き輪特有の浮遊感が凄く気持ちいい。 「ああ、楽しいな。水の滴るピヨたんも可愛い」 「プール、久しぶりです。最後に行ったのが大学のサークルの友達とだから……ホント、五年ぶりぐらいです。海も行ってないな……」 「そうか」 「こうやって体動かすの、凄く楽しいです。いつもと違うことをするのもいいですね」 「ボルダリングの時も楽しんでいたな。また一緒に行こう」 「なんだか嬉しいです。今度は俺が周防さんを抱っこします」 「できるのか?」 「……多分、ですけど」  浮き輪に肘を置いている周防が濡れた前髪を掻き上げた。男らしい額と眉が見えて、その仕草にときめいてしまう。こんなカッコいい人が俺の恋人なんだと、改めて感慨深い気持ちになる。  嬉しいし、くすぐったい。 「これからも色んなことをしよう。夏になったら海に行こう。冬になったら雪山に行こう。海外旅行もいいな。アメリカのアンテロープキャニオンやカナダのイエローナイフのオーロラ、ギリシャのサントリーニ島、アイスランドのブルーラグーン……入中に見せたいものがたくさんある。したいこともたくさんある。次のアベは二人で思い切り楽しもう。これは約束だ」 「はい」  次の約束が嬉しかった。  大きな約束だけでなく、ほんの小さな約束も。  浮き輪の下で足を絡ませたり、手を繋ぐことも。  何気ない触れ合いにも幸せを感じる。人を好きになるって凄いなと思った。  ――本当に凄い。  仕事もその他のことも、これからなんでもできる気がした。周防がいてくれたらどんな辛いことでも、きっと乗り越えられる。

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