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【21】-2

 母との電話の内容を慎一に話すと「理知的な人だな」と少し珍しい感想を聞かされた。 「住む世界が違うとか言われたらどうしようかと思ってたけど、わりと大丈夫そうでほっとした」 「さすがにそれはないと思うけど……」  笑って、キスをしようと顔を近づけたところで、入口の扉がバン! と勢いよく開いた。 「岩田さん、早すぎない?」 「慰労会だよ。一週間、どうにか頑張ったガキんちょたちを、ねぎらってやらなきゃ」  な、和ちゃん、と両肩を掴まれてぎょっとする。なんとか平静を保って耐えた。  最近、だいぶ慣れてきた。ほかの人にうっかりふれても飛び上がることもなくなった。  作業着姿の少年たちに、「テル以外は未成年だからジュースだぞ」と岩田が声をかける。慎一には「なんか腹にたまるもん出してやってくれ」と言って、和希の隣に腰掛けた。 「この間のおねーちゃんが、SNSに星一個つけたみたいで、新規客が激減だな」  たまにあるんだよ、と岩田は肩を竦めた。 「それがあるから、嫌な客の相手もしなきゃならん。客商売は大変だ」  グラスとボトルを岩田の前に置いた慎一が、「そう言えば、岩田さん、和希に言ってなかったの?」と聞いた。 「何を?」 「俺が女の人、苦手だって」 「言ったよ」  え、と和希は岩田を見た。「言ったよ」と岩田は繰り返す。 「あのおねーちゃんが来るようになった頃、慎一は客の女の子とは付き合わないよって言っただろ」 「客の、女の子って……」  そういう意味? 「だけど、和ちゃんと慎一がくっついてよかった。これでやっと、日水さんに顔向けできる」  テルたちにも声をかけ、岩田は「乾杯!」とグラスを掲げた。 「どうせしばらくご新規さんも来ないんだし、週末は早く店じまいして、二人でゆっくりするんだな」  チラリと慎一に目をやれば、ちょっと恥ずかしくなるようなにやけ顔で和希を見ていた。  引っ越しは連休中に済ませた。  今日はそれから二度目の週末だ。  引っ越しの後と一度目の週末を思い出して、腰のあたりがじわりと甘くうずいた。  田中と鈴木が来たところで岩田が席を移動し、ほかの常連客が少年たちに声をかけて岩田たちと合流する。慎一は忙しく酒や食事を運んでいた。 「お待たせ」  ブルーのグラスがカウンターに置かれた。正しいレシピで作られた魔法のお酒。 「飲んでも寝るなよ」 「寝ないよ」  待ちに待った週末なのだ。  にやりと笑った慎一が「楽しみだな」と耳元で囁く。 「酔った和希は、エロいからな」  赤くなるのを笑って、軽く頬をなでる。  ふれられたところから甘くとけて、閉店後に訪れる二人きりの夜が待ちきれなくなった。                         了 最後までお読みいただきありがとうございました。

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