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第9話
(ロカイは、仏教の輪廻転生の話をしているんだよな? そんなことってほんとにあるのかな?)
「この星ではどこの国でも人間が神を見失わないようにと、天使との仲介者として巫女や神官たちが活躍しているんだよ。地球でもはじめはそういうことが行われていたんだけどね、残念ながらすぐに挫けてしまっている。そういったような伝説くらいは残っているんじゃないかい? この星の人間たちは記憶のどこかに地球での失敗を覚えていて、それを教訓に祈りを大事に互いを尊重してあって生きているんだ。――しかし」
大事にはいる区切りにと、ロカイはいちど言葉をきった。
宝はこくんと唾を飲みこむ。
「この国はジョウアンというんだが。ジョウアンでは神の言葉を聞く姫巫女の存在を否定する左大臣を筆頭にして、四日前にクーデターが起きたんだ」
「大臣が国を乗っ取ろうとしているの?」
たいへんだったんだ、と宝のプラウダに向けた瞳に同情の色がのる。
「それは本人に訊いてみないとわかりません。ただほんとのところは、左大臣にもわかっていないのかもしれませんね」
宝の質問にプラウダが首をすこし傾 けながら答えると、また金の髪がさらさらと流れた。
「まぁ左大臣が自分と王の役割の違いをわかっていないことは確かだ。彼が純粋に自分のほうがいい政治ができると民のために思ってしたことなのか、信じられない姫巫女プラウダ、もしくは巫女の存在自体を容認している王に失望したのか、――まぁ理由はそのあたりだろう。なにしろ神の声がわからない左大臣は、姫巫女が正当に神に選ばれていることも、同じように王が王であることも理解ができないんだ。そして彼がおなじ気持ちでいる仲間たちを募った結果、クーデターが起きてしまった」
「んで、王さまは死んじゃったの?」
そんなデリケートなことをあっけらかんと訊く結城に、宝はぎょっとした。
「いいや。皇太子と信頼できる側近とで、王は隣国に送り届けられ四日前に亡命が成功している」
「じゃあ、この国はもう左大臣のものになったんですか?」
「いやまだ皇太子がいるから、彼はすぐにはやりたいようにはできないんだよ。皇太子は王を送り届けたあと、すぐに戻ってきた。ただし、領地に戻ってきた彼はその足で同じく危険な立場にある姫巫女のプラウダのところに向かったんだが、その途中襲われた。――ギアメンツのことだよ」
「えっ!」
「ギアメンツって王子さまだったの⁉」
宝と結城が驚いて声を上げたが、その訳あいは違った。
(さ、刺されたっただって――!? 皇太子なのに⁉)
「第一王子で、立太子している。だから正確にいうと皇太子だ」
「うっそー。お金もち⁉ お礼いっぱいしてもらおうね、宝!」
「お前云っていることが、変わってるじゃないかっ!」
(ラボでは支払いは俺の父さんがするから、とか云ってたクセに!)
「礼はちゃんさせてもらう。で、話を戻すよ。この星ではひとを殺 めるものは、そうそういないんだ。業 を承知しているからね。だからギアメンツを襲った暴漢も、彼が怪我をした時点でいちど退いている。なんとか神殿に辿りついたギアメンツと私たちは合流して、その後プラウダの託宣 のもと、彼女の部屋で君らを召喚したんだ。そして私たちは出会うことができた」
ロカイの云う召喚という言葉に宝は、あれ? と思った。
「召喚って、あの、魔法陣とか書いて呪文を唱えて、魔物を呼んだりするやつ?」
「そうですよ。宝は私の部屋で床に書いてある円陣を見ていましたね」
「ああ。アレがそうなんだ……。でも……」
「でも召喚っていうより、そっちが晶のラボに来たんじゃないの? あたしと宝がラボ入るなり、即効、晶が爆発させるんだもん。まったく意味わかんない」
結城も宝と同じことが気になったようだ。くるっと晶を振り返った結城が首を傾げると、晶が口を開いた。
「改良中の接着剤の素材の成分を計量していたら、あんたが飛びこんできて、びっくりした拍子にうっかり肘が硬化剤の入った袋にあたったのよ。それで、ばっふんって――」
晶は両方の手のひらを上にむけて、宙に跳ねる仕草をした。
「粉塵爆発か……。恐ろしいことすんなよ、晶」
ラボでの爆発の原因がここではっきりする。
彼女を非難した宝に、ロカイが擁護するかのようにつづけた。
「姫巫女プラウドの託宣も占いも確かなものなんだよ。君の起こした爆発のエネルギーを利用することも、ちゃんと計算されたうえでの召喚だ。日も時間も、ひともすべてが選ばれて、あのタイミングなんだよ」
「あの爆発は召喚のさいにエネルギーとして吸収されたってことか。まぁ、おかげでラボが廃墟にならないですんだ」
(晶、お前、それでいいのか⁉ 納得できたのか⁉)
この表情 でも晶はラボが無事だったことを、とてもよろこんでいる。しかしどうしてもロカイの云うことが疑わしい。
「それって、あとづけくさいんですが……」
「それが理解できるものが少ないのが地球。理解できるものが多いのがこの星だよ」
「宝、すべてが必然なのです。この宇宙に無駄はひとつもありません」
よくはわからなかったが、ロカイにつづけて云ったプラウドの言葉は優柔だが不思議に真実味を帯びていて、宝は素直に「そうなのか」と頷いてしまった。
(いや、別にかわいい子に云われたから納得した、とかじゃないぞ)
「この召喚では、宝、あなたは皇太子。そして結城は攻撃者からわたしたちを守るもの。晶、あなたは補助者として選ばれています。すべてが解決する三日あとまで、わたしたちに協力してくださいね」
宝たちが協力するのはあたりまえだというように、プラウダがにこりと微笑んだ。彼女の輝く金糸 がまたさらさらと揺れた。
(はぁ、きれいだ。かわいすぎる……)
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