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第44話 <Hシーン注意>
「それがだ。ひさしぶりに会ったギアメンツは、落ちた井戸のなかでは頼ってくるし、やたらと素直だ。それがとてもかわいく見えたんだ。俺は驚愕を通り越して焦ったよ。そしたらその別人のようにかわいくなった皇太子が、ベッドに誘ってくるわ、俺に縋りついて泣きはじめるしで……」
多少脚色がついているようだが、自分の不甲斐ない言動を改めて聞かされ、宝は情けなくて「うぅ」と呻いた。イアンも呆れたのではないだろうかと思えば、そうではなかったらしい。
「あんなに憎たらしかった皇太子が、あんまりにも自分の理想どおりになってたんで、俺はどうしようかと思った」
「へ?」
半身を捩じった上体の身体を弄 られ、キスをされる。
「あっ、イアン……や、やっ……そこ、だめっ……」
「きっとまた揶揄われているのだろうと思っていても……、いったんかわいく見えてしまうと、この目も」
瞳にキスされる。そして次には唇に。
「この唇も、とても魅力的で。まさかギアメンツ相手に欲情する日がくるなんてと、自分を呪ったが――」
(よ、よ、よくじょう⁉)
身体が一瞬で沸騰してしまう。暫く柔らかい唇同士を擦りあわせられたあと、イアンの舌が自分の口のなかに差しこまれた。狭い口腔をくまなく愛撫される。
(気持ちいい……)
より彼を求めるために、宝は寝返りを打つと仰向けになり、彼と正面からしっかり抱きあった。長い口づけが解かれて宝がぷはっと息を吐いたとき、目尻にひっかかっていた涙が、ぽろりと転がり落ちていった。満足そうに目を細めたイアンの口もとが綻んでいる。
「その皇太子が偽物だったって知ったときには、心底ほっとしたよ」
「イアン……」
「それにこんな泣き虫を、ひとりになんてしておけない。お前がここに残れないのならば、俺がお前についてどこにでも行ってやる」
「イアンッ、大好き」
宝には自分の生まれ育った世界を捨てることができても、家族のことは到底捨てることができない。死んだ母の分まで父に寄り添ってやりたかったし、直子が寂しくないようにしてやらないといけないのだ。それになによりも彼らと別れるのは寂しいのだ。
手放せないものが多く、イアンのもとに残ると云えない宝に、それでも彼はついてきてくれるという。その言葉だけで充分だった。
「ありがとう」
宝はイアンの首に腕をまわすと、想いをこめてしっかり彼にしがみつく。
昨日みたいにして欲しい、抱きあいたいという気持ちは、すぐに汲んでもらえた。宝はイアンに手際よく服を脱がされているあいだ、ぎゅっと目を瞑っていた。心臓が破裂せんばかりにドキドキと高鳴っていた。
イアンの膝に乗せられた宝は彼の肩を枕に横抱きにされていた。ときおりヌチャと水音がするのは、宝の性器が擦られているからだ。蕩 けそうな腰をもじもじとさせ、快感が走り抜けていく足のつま先で時折シーツを掻く。
(音、ヤダ……)
イアンの手の平に包まれた宝のものは、もうこれ以上はないくらいに張って反り返っていた。先走りも多いのだろう。水音はますます酷くなっていく。
(だめだっ。恥ずかしくて死にそう)
イアンの胸に顔を埋めると、彼の上がった体温と汗の匂いに目眩 がする。
(すごい……、いいっ……)
緩む口を噛みしめ、溢 れてくる唾液を飲みこんだ。
「宝、顔あげて」
このセリフはもう三度目だ。彼の手を煩 わせないように、自分からイアンの唇に自分の唇を合わせると、彼の口が開くのに合わせて宝も口をそっと開いた。
「ふっ……」
絡みあう舌でクチュクチュと音がたつ。
キスだけでも気持ちいいのにその恥ずかしい音に煽られて、またとろりと宝の張りつめた先端から体液が零れていった。腰がふるふると震えもう堪らないとなったら、宝はまた彼のキスから逃げてその胸に顔を押しつけて隠すのだ。
宝の右手はイアンのものを握りしめていた。この時間がはじまったときに彼に誘導されるがままにそこに指を絡めていた。しかし宝は自分に与えられる快感を受けとめることにいっぱいいっぱいで、彼にはなにもしてかえせていない。そんな余裕はない。たまに思いだして彼の性器を擦ってみたりもするのだが、すぐにその手は止まってしまうのだ。
そんな宝に、イアンはああしろともこうしろとも云ってこない。宝の好きなようにさせてくれていた。これではまるでイアンと手を繋ぐかわりに、彼のそれを握りしめているようなものだ。
「……んんんっ」
鈴口にぬめりを広げるようにされると、お尻を中心にしてぶるるるっと震えた。その拍子にまた彼を握る手にぎゅっと力がはいってしまう。
(あっ……)
またイアンのそれが少し膨らんだ。垂れてきたらしい彼の粘液でぬるっと手が滑ると、宝は思いだしたようにしてそれを数回擦った。イアンの喉からあえかな声が漏れたあと、宝はふたたびベッドに横たえられた。
「宝っ、キス」
「……んっ、んんっ、んんっ」
激しく口腔を荒らされ宝を扱く手の動きが速まる。体勢を変えて彼が覆いかぶさってきたのは、宝をイかせるためだったらしい。
「んっんんっ……んっ……ふぁあっ」
舌で感じやすい口蓋 を擽 られながら、両手を使って性器を愛撫された宝は、あっさりと絶頂を迎えて吐精した。
はぁはぁはぁはぁ。
乱れた呼吸を整えているあいだは、額や目尻に慰めのようなキスが与えられる。昨夜もイアンは最中によくこうやって労わるような素振りを見せてくれた。宝はこんな彼のことが大好きだと思った。
脚を広げられ昨夜とおなじように、宝の吐き出したものが彼の指で愛奥に塗りこめられる。昨日の目合 いからまだ時間が経 っていないそこは、ずっと彼の感覚を覚えていて、まだ濡れている気さえしていた。だからスムーズに彼を受けいれることができると思っていたのだが、でもそれは違っていたようで……。
「……っ」
彼が宝に潜りこんできたとき、昨日のような乾いた内部を抉るような摩擦感はなかったが、それでもつきんと鋭い痛みは走った。宝がぎゅっと眉を寄せて半泣きになっていていると、イアンに気づかれてしまう。
「痛いか?」
「ん。すこしだけ」
「わかった。……いちど抜く」
そっと彼が抜けでていくのを、宝はとっさに彼の腕を押さえてとめた。
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