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呪いの代償
「…どうしてノエルさんも来てるんですか?」
「枢1人でたどり着けるか心配だったんだ」
「ルイ様を置いていっていいんですか?」
「大丈夫!少しくらい放置してても屋敷が多少汚くなるくらいだから」
呪いに詳しい魔法使いは北の外れの街にいるらしい
そんな言葉をドッチボールかの如く僕に投げつけたのが1週間くらい前
確かに協力を約束してくれた
が、魔法使いの名前も分からなければ住んでいる場所も分からないという
それなら北の比較的大きな街に行って情報を集めようと思ったまではよかった
いざ準備をして屋敷の扉を開いたところで
その街まで行く手段がないことに気づいたのであった
「それに僕がいなかったらどうやって北の街までいくつもりだったの?」
「…歩き、とか?」
「枢、正気?」
「だってお金ほとんど無いし…」
「まぁ不可能ではないだろうけど…」
扉の前で途方に暮れていたところにちょうど出くわしたノエルさんのおかげで
僕はこうして箒に乗って空の旅を満喫しているのであった
「いつかこの恩は返しますので…」
「ならさ、敬語やめて?」
「そんなのでいいの?」
「うん!ずっとやめてほしかったんだけどタイミング無かったんだよね」
「ノエルさ…ノエルがそれでいいなら」
「いいね!」
嬉しさからなのか、箒のスピードが少しだけ上がった
単純だと思いながら僕自身もなんだか嬉しく思った
今は僕の後ろにいるから表情とかは見えないから想像の域を出ないけどノエルも僕もそんなに変わらない
なんとなく魔法使いに苦手意識があったけど実際に話してみるとそこまで悪い種族でもないのかな
「あ!街が見えてきた!一気に飛ばすよ!」
「え、まだ!?」
「舌噛みたくなければ喋らないでね」
「っ~~~~~~!!??」
「あれ、なんか顔色悪くない?」
「死ぬかと思った…」
「死ぬ?でも枢は死ねないでしょ?」
「そうじゃなくて!…いや、死ねないのは間違ってないけど」
ノエルのおかげで決して無事に、ではなかったが北の街、ローザスに着くことはできた
けれど全速力で飛ばしたおかげで僕の足は地面についても尚笑っている
これならお腹を空かせながら歩いてきたほうがよかったのでは…?
箒を握ってた手も強く握りすぎて若干痺れている
「僕になにかできることはある?」
「とりあえず帰るときは安全運転でオネガイシマス」
「…うん。約束する」
ローザスは僕たちがいたところよりも北に位置しているから少しだけ肌寒い
街の人も過半数が厚手の服を着ている
違いといえばそれくらいで、あとはよくある街だった
まずは呪いに詳しいと噂の魔法使いの情報を集めないと
でもどうやって集めればいいのか見当もつかなかった
「そういえばエマの屋敷もこの街にあったんだよ」
「――エマの?」
「そ。枢がいたところ」
「ここから遠い?」
「いや、確かここからそんなに遠くなかったと思うけど日は落ちるかも」
「…行ってもいい?」
「ん。じゃあついてきて」
ノエルに連れてきてもらった場所は、街から少し離れた森
夕日が落ちかけているのもあって周囲はかなり薄暗くて気味が悪い
今はただの森だがエマが魔法で屋敷とそれを隠すための結界を張っていたらしい
何か、僕も思い出せるきっかけがあるかもと思ったけど
何も、なかった
でもそれが、あるべき姿なのかもしれない
「ん?この花…」
「まだ新しいね。誰かがお供えしたのかも」
「そうか…」
周囲を見回したけど、ここには僕たちの他にはいないようだ
もしもこの花を供えた人に会うことができたら
彼女について聞いてみたい
…けど、それよりも優先すべき用事があるしワガママは言えないなぁ
「行こうかノエル」
「もういいの?」
「うん。早く魔法使いを見つけないと」
「わかっ…ん?」
「どうかした?」
「誰か来るみたい。たぶん魔法使い」
「え?」
なんでわかるの、と言おうとするより前に突風が吹く
それは僕の呪いが発動するほどの殺意がこもったものでがたいのいいノエルでさえもあっさりと吹き飛ばされたほどだ
後ろの方で何かがぶつかる音と僅かなうめき声が聞こえる
どうやらあまりの風の強さに後方へ飛ばされたようだ
風が次第に弱くなりゆっくりと目をあけると1つの人影が見えた
「こんな何もない森に何をしにきた」
声色からして女性だろうか
やや低い声から警戒や敵意が感じとれる
「エマの屋敷がここにあったと聞いてきました」
「……。貴様はエマの何だ」
「知り合い…だった」
しばらくの沈黙のあと、かさっと草を踏んだ音が聞こえる
月明かりが照らしたのは深い緑色の髪と赤い瞳をした人
短く整えられた髪と鋭い眼光をしているから喋らなければ男と見間違えそうだ
彼女は僕をジッと見やる
さきほどの警戒感は無くなったけど張り詰めた空気が森を支配する
「魔力が感じられないところから察するに貴様は人間か?」
「え、あ、はい」
「よほど恨まれていたんだな。さては罪でも犯したのか?」
「え…?」
この人、なんでそんなこと聞くんだ?
「あのっ、呪いに詳しい魔法使いがいるって聞いてこの街に来たんです」
「あぁ。私に会いに来たのか…でも残念だな、生憎だがやめたんだ。呪うのは」
「待ってください!話だけでも…」
「黙れ人間。目障りだ」
突風が吹き荒れる
それは僕の呪いが発動するほどの威力で
身動きを取れなくなっている内に逃げようとしているのかと思ったけど
すぐ目の前に彼女がいた
何かに驚いたようで瞳が僅かに見開かれて、小さなため息の後ゆっくりと閉じた
「――呪いとは、呪った人物にも相応の代償が必要だ」
「相応の、代償」
「呪いがより強力に、完璧になるほど代償は大きい」
彼女は僕を見ているはずなのに
なぜか僕を通り越してその奥の別のものを見ているようだった
懐かしさと悲しみを滲ませながら歪に笑う
あぁ
彼女の態度でなんとなく気づいてしまった
僕はエマの命を代償にこの呪いを受けたのだろう
「…ただ死ぬ場所を探していただけなのに」
「だから死ねないように呪われたんだろう」
「教えてくれてありがとうございました」
「…ふん。向こうで寝ている奴を起こしてついてこい、一晩だけ泊めてやる」
ノエルに近づくとまだ気を失って倒れていた
すこし打ち所が悪かったようで、気が付くのに少し時間がかかった
気づいたら自分が気絶したことに動揺を隠せずに何度も木にぶつかりながらも森の奥の小屋にたどり着く
小屋に着くなり魔法使いは踵を返して闇夜の中に消えて言ってしまった
僕自身も緊張の糸が解けたのか、布団に倒れこむと数秒ののちに意識を手放す
深く眠っていたのか夢すら見ないで次の日を迎える
意識を引っ張りあげたのは窓から差し込む日光だった
「おはよ」
「あ、おはよう。枢」
「…怪我とかしてないの?」
「アザくらいかな?大したことないよ」
長い時間気を失ってたみたいだけどね
困ったようにノエルは笑う
僕は昨夜の事を話した
話を聞き終わるとノエルは顎に手をあてて何かを考え込む
例の魔法使いもどこかへ行ったきりだし
ここに長くいても仕方ないのかもれない
ふと視線をテーブルに移すとおいしそうな食事がならんでした
「ノエルが作ったの?」
「…いや。僕が起きた時には置いてあったんだ。先に食べたけどおいしかったよ」
「じゃあ僕も、いただきます」
少し冷めてしまっていたけどそれでも十分おいしかった
食事をしながら今後の事を話し合って、今回はこれで帰る事になった
この小屋にいても魔法使いが帰ってくる確証もないしあまり長い時間ルイさんを1人にできないといのもあった
帰り道は昨日の約束を守ってくれてゆっくりめに飛ばしてくれた
まだ慣れてなくて下を見るのは多少怖いけど
風を切っていとも簡単に飛べるのは羨ましいと思う
「また空を飛びたいな…」
「僕でよければいつでも付き合うよ」
「ありがと」
「枢が前にいると1人の時よりあったかい」
「僕はカイロじゃありません」
たった1日
そんな短時間で荒れてしまった屋敷を文句言いながら掃除をしたのはまた別の話
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