4 / 5

初任務

「ルイ様から聞いたよ!おめでとう!枢!よかったね!」 「どうも…」 「呪いを解く方法が見つかるといいね!」 「まぁ…うん」 「…?なんか嬉しくなさそう?」 「いや、嬉しいけど、それよりも不安の方が大きくて…」 協力まではとりつけたけど、絶対に解決策が見つかるわけではないし 下手したら見つかるまで泥のように働かないといけないと考えると憂鬱で仕方ない 「ふーん?よく分からないけど、僕は嬉しいよ!」 屈託が感じられない笑顔でノエルさんは言う 昨日躊躇なく僕に刃物を向けた時も感じたけど彼は考えたことをすぐに行動に移す性格なのだろう 裏表なく素直、従順 悪く言えば単純 あまりこの手のタイプは僕の周りにはいなかったからどうやって接すればいいのか分からないときがある 「…そういえばノエルさんって何歳なの?」 「えー、覚えてないなぁ…枢よりはすごいおじいちゃんなのは確かだよ」 魔法使いは長生きのようだ それにしても見た目は僕とそんなに変わらないな というか、似たような会話をいつかしたことがあるような… 「いきなりどうしたの?」 「ルイさんもノエルさんも見た目はそんなに僕と変わらないから気になって」 「魔法使いの容姿なんて信用しない方がいいよ。いくらでも変えられるし」 「そっか」 「枢いるか?」 「あっ、おはようざいます」 「はよ」 「さっそく仕事。飯食べたら俺と来て」 前髪を上げたルイさんが洋服を抱えてダイニングルームに入ってきた 僕の隣の椅子に腰かけ、洋服を置く これを着ろということだろう 「…はい」 「あれ、もしかして緊張してる?」 「してないです」 「ふぅーん?」 ニヤりと口角を上げながら僕の顔をのぞき込む 緊張しない訳がないじゃんか きっと僕たちが行く場所には魔法使いたちがたくさんいるだろうし そんな奴らの中に突っ込んでいくなんて正直嫌だ 「ぷっ…枢はさ、顔に表情が出すぎなんだよ」 「…最初から気づいてたなら意地の悪いこと言わないでもらえますか」 「んな怒んなって。それに今日は物騒なことは起こらないだろうから安心しな」 「ならいいですけど…」 ルイさんが持ってきたのは顔が隠れるくらい大きなフードがついてるローブだった あとからノエルさんに聞いたんだど、どうやらこれは立派な正装らしい 顔を見られたくならフードを被っていても特に指摘はされないと これはちょっとありがたいかもしれない 「別に減るもんでもないしフードいらなくない?」 「え、でも…」 「枢のお披露目も兼ねてるからフード禁止」 「お披露目…?」 「最強の盾ですって見せびらかすんだよ」 こうして僕の淡い期待は粉々に砕けたのだった 連れてこられた大きな広間には似たようなローブを羽織ってる人達がたくさんいた 談笑している人、本を読んでる人 自分の好きなように動いているようだ みんな魔法使いなんだろう、なんか独特な雰囲気がある 少し意外だったのが外見がかなりお年をめしている容姿の魔法使いがいる事 今朝の話題があったからみんな魔法で若く見せてると思ってたからだ 「こんにちはルイ様」 「こんにちは」 「最近はどうですか?」 「まぁそれなりに」 「この間は北の森の問題を解決したと聞いております」 「えぇ。実害は無かったですが近くに住む人々からは相談が多かったですからね」 にこやかに会話をするルイさんは今までとは印象がだいぶ違う きっと僕やノエルさんと一緒にいるときは比較的素で話しているんだろう こうしてみるとルイさんは本当に次期当主、なんだなぁ 「俺の顔になにかついてるかい?」 「っ!い、いや…すいません」 「ルイ様、こちらの方は?」 「最近雇った使用人です。社会勉強の一環で連れてきました」 「そうなんですね。ルイ様のような方にお仕えできて貴方も幸せだね」 「は、はい…」 まだなにもできないけど そう考えるといつルイさんにクビを通告されるか分からないな… なんでもいいから少しでも役に立たないと しばらくすると、2人が軽く会釈をした どうやら話が終わったみだいだ 「枢」 「はい?」 「これからはお前は同行できないから、部屋を出て左、突き当りまで歩いたところの右の部屋に待機してて」 「分かりました」 「知らない人について行くなよ?」 「そこまで子どもじゃないです」 「魔法に対抗できない人間が魔法使いしかいないこの場所にほぼ丸腰でいるんだから似たようなもんだろ」 「…そうですね。気をつけます」 先ほどの態度とは打って変わって極悪な悪人ずらをしながらルイさんは笑う また僕の反応を見て遊んでる これ以上反論してもルイさんを余計楽しませるだけだと悟った僕はさっさと指定された部屋まで行くことにした 部屋を出た先の廊下の左側は思っていたより長そうだ 息を殺すようにうつむいて歩く しばらくすると段々と人影が少なくなっていった 突き当りまでたどり着くと緊張の糸が解れたのか手が僅かに震えているのに気づいた 手汗もすごい 今まで冷静を保っていたのが我ながら凄いと思う 「こんにちは!」 「こんにちは…?」 部屋には先客がいた ウェーブがかかった茶色い髪が日光に当たって輝く 薄い緑色の瞳は一瞬驚いたのか僅かに見開いている 「見かけない顔だね。どちら様?」 「えっと…ルイ様の元で働いてる者です」 「え?ルイの?」 …呼び捨て?ルイさんの友達かなにかなのかな? こくりと頷くと彼は僕の元まで来てジッと観察し始めた たまらず俯くとグッと顔を左手で持ち上げる 「何か秀でてる才能があるの?」 「い、いや…特になにも…」 「ふぅん…じゃあ君はどうやってルイに近づいたの?」 まるで品定めされているような気分だ 纏っている雰囲気は柔らかいものなのにどこか冷たくて、怖い 「それを貴方に言う通りはないです…」 「…まぁ、そうだね。でも僕は知りたいんだだから…」 右手の人差し指の先がポワっと光る あれは魔法だ…逃げないといけないのに体が言う事をきいてくれない 殺さ…あれ?なんで呪いが起こらないんだ? 人差し指が目の前に迫っている 軽くパニックになっている僕の耳に扉が開く音が入ってきた 「俺の使用人を口説くのはやめろ。エド」 「っ、ルイ様!」 「口説いてないよ。友達になろうとしてただけ」 「震えあがってる人間がお前には見えないってか」 「…人間?人間が、ルイの世話役をしてるの?」 驚く彼をルイさんはうっとおしそうに睨む 緑色の視線が刺さる まるで品定めをされているようで居心地が悪い しばらくその状態が続いたのち、やっと解放された 「先ほどの非礼をお詫びするよ。ごめんね」 「いえ…」 「ったく…お前の姿が見えないから探しにきてみれば…」 「僕を迎えに来てくれたんだね。ありがとうルイ」 「たまには定時に指定された席にいたらどうだ?」 「こうみえて忙しんだ。多少の遅刻は許し欲しい」 「スケジュールの管理も仕事の内だと思うが」 「1日は短いから1つでも多くの事をこなしたいんだよ」 ルイさんの眉間には深い皺 言葉にも棘があるし彼に対して苛立ちを覚えているのは明らかだった それに対して茶髪の彼は対照的に笑顔で話をしている ルイさんは彼が苦手…といか嫌いなのか…? 「あぁ、それはきっとエドワード様だね」 「エドワード様?」 「ルイ様とは幼馴染でライバルみたいな感じ」 今日の起きたことをかいつまんでノエルさんに話をした ルイさんのライバルということはあの人も偉い人なのだろうか あの後、30分ほど大人しく部屋で待機していたが訪れたのはルイ様だけでエドワードさんには会う事はなかった 正直どんな顔で話したらいいのか分からないからホッとしてた ルイさんもそこまで機嫌が悪い感じではなく、いつものルイさんに戻っていた 「どうせまた口論したんでしょ」 「いつもの事なんですか?」 「そうそう。たぶん枢もそのうち慣れるよ」 その感じだと2人の仲はあまりよくないみたい まぁ僕にはあまり関係のない事か 「枢いる?」 「はい」 「呪いに詳しい魔法使いがいるらしい。今度会いに行ってみるといい」

ともだちにシェアしよう!