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ルイ・レータント

「んー。魔法を自在に操ることは出来ないっと…」 「そもそも僕は人間だし」 僕にとんでもない呪いがかかっていると判明した夜が明けた あんなことがあって眠れるわけがなく、ようやく寝付けたと思ったらノエルさんに叩き起こされ今にいたる 呪いについてできる限り自分で把握させておけ、とルイさんに言われたらしい 僕はぼやけた頭をなんとか回して訳の分からない呪文や動きをノエルさんの真似をした …が、特に何かが起こることは無かった 「そうだけどさ、使いたいとか思ったりしないの?魔法」 「魔法使いは基本好きにはなれません。考えてることが分からない」 「ひどいなぁ。僕もその魔法使いなんだけど?」 「…ノエルさんはなんとなくいい魔法使いなのかなとは思います」 「ルイ様は?」 「むしろどこにいいところがあるんですか?」 「ははっ!それ本人の前で言わない方がいいよ!」 ノエルさんの反応はちょっと予想外だった ルイさんはノエルさんにとって上司とか、格式が高い人なのは間違いない 僕の言葉に怒るのかと思えば笑ってみせた …こういうところがよく分からない 「よし。じゃあ次の実験やるね」 「まだ何かやるんですか…?」 「これが最後!あ、でも驚かないように目は閉じてね?」 「…?」 最後、その言葉を信じて僕は目を閉じた 視界が閉じられた瞬間に感じとれたのはノエルさんの息遣いと 何かがはじけた音 思わず目を開けるとノエルさんが僕に刃物だったであろうものを向けていた 「あー殺すこともできないのかー」 「…ノエルさん?」 「何?」 「それ。刺さってたら僕は…」 「大丈夫!痛みを感じないように一発でやるつもりで狙ってたから!」 「…前言撤回」 いたって真面目に言ってるから救いようがない 非力なのが本当に悔しいと思えたのは初めてかもしれない あぁ…でも 今までは非力なのは仕方のない事だとどこか諦めていたところもあったのかな 「ノエル」 「あ、ルイ様おはようございます」 「おはよ…何してるんだ?」 「呪いの事を把握させろと言ったのはルイ様ですよ!」 「あー…で、どうだった?」 「魔法は使えないのと殺害も無理でした」 「…へぇ」 「エマ・ローランは本当に凄い魔法使いだったんですね。こんな完璧な呪いをかけられるなんて」 「よほどこの人間を憎んでいたんだろう」 僕を憎んで死ねない呪いをかけて、エマ・ローランは死んだ 憎んで… なんだろう…すごい変な感じがする 何が、と言われると分からないけど 「ルイ様は呪いの解き方とかは知らないのですか?」 「俺自身はからきしだが、その辺りを専門に研究してる輩がいないとも限らない」 「…え?」 「まぁ俺が協力する義理もないがな」 ぴしゃりと言い切った 確かに言ってることに間違いはない けど! なんて冷酷な奴なんだ… いや。ここで黙ってたらこの会話が終わってしまう なんとかルイさんの協力を約束させるようにしないと…! 僕は何もできない、分からないまま一生呪いと共に生きなければいけなくなる!! 「どうすれば、協力してくれるんですか?」 「俺にとって有利な条件を提示してくれたらいくらでも協力しよう」 「有利な…何か困ってる事とかありませんか?」 「己の弱みを交渉相手に見せびらかす奴なんているわけないだろう」 「うっ…な、なら!時間をください」 「いいだろう。どのくらいほしい?」 「…1週間」 「遅い。今日の夜、俺の部屋に来い。そこで交渉しよう、人間」 期待はしないで待っている 手をひらひらと揺らしながらルイさんは部屋から出ていった 数秒間の沈黙の後、ノエルさんの小さなため息で我に返る 今日の夜? 時計は午前8時を指している 「…大丈夫?」 「大丈夫に見えますか…?」 「まずは相手の事を知るところから交渉は始まると思うんだ」 「まぁ…確かに」 黒縁の眼鏡をくいっと持ち上げながらノエルさんは得意げに語る なんで眼鏡をかけたのか尋ねると気分と返された 人懐っこい彼が眼鏡をかけるとたちまち優しいお兄ちゃんといったような雰囲気になる そして得意げにルイさんの事について語り始めた ルイ・レータント レータント家時期当主 現当主であるお父さんの仕事をいくつか引き継いでいるから割と多忙 魔法使いとしての能力も秀でている 「腹立つくらいにハイスペックだな…」 「ルイ様は基本的に縁を大切にする方だからレータントに属している家からの信頼は厚いんだ」 「縁…か」 「だからてっきり貴方との縁も大切にしてると思うんだけど…」 「僕から言わせれば断ち切ろうとしてるとしか思えません」 「でも2人ってどことなく似てるところあるから案外気が合うと思う!」 ノエルさんの最後の言葉を無視して窓を外を眺める 下に見える庭はとても綺麗に管理されているようで様々な種類の花が太陽の光を浴びている 優秀な庭師でも雇っているのだろうか 「ここで働いているのは?」 「基本は僕だけ。たまに外部からお手伝いを雇うくらい」 「この広い屋敷を1人で!?」 「まぁ簡単な掃除とかなら魔法で出来るからね」 「ふぅん…」 それなら彼は主はいても同僚とかはいないのか 他人と話さないで生活できるのは少しいいなと思う けど、僕とは性格が違うし寂しいとか感じたりするのかな 「あ!君もルイ様に仕えるのはどう?」 「それも考えたけど正直家事とかはからきしだし…土いじりならまぁ多少は…」 「ドールは作れないの?」 「…ドールは、作れない」 ドール 機械仕掛けの人形で、魔法使いたちの天敵 心を奪われていただけの人間が対抗策として創り出した 水準の高いドールは見分けがつかないほど 魔法使いが機械に対して魔法を使ってしまうと魔力を失ってしまうという 「ならこれだけは出来る!みたいな特技とかはある?」 「そんなものがあったら今ここに僕はいないさ。僕にあるのは死ねない呪い、くらい…」 そうか…僕には呪いがあるじゃないか ルイさんの部屋の扉を叩いた しばらくすると扉がゆっくりと開く 中に入ると机の上の書類に目を通しているルイさんがいた そして僕に目もくれずに本題に入る 「それで?取引材料は見つかったか?」 「…僕が貴方の盾になります」 「盾?」 始めてルイさんが顔を上げた 話に興味をもったようだ 「僕は呪いのせいで死ねないし、殺せない…なら、最強の盾じゃないですか?」 「ふむ…確かにそれは使えそうだ」 「可能な限り僕はルイさんの傍にいます」 「面白い。交渉成立だな…ようこそ人間。魔法使いの世界へ」 僕1人では今の状況をどうあがいても打開できる術はない それなら何振りかまっていられないのだ 自分自身をも使って、必ずこの呪いを解こう 「改めて…俺はルイ・レータントだ」 「…朝霞枢」 こうして僕と魔法使いとの奇妙は縁は結ばれたのだった どうかこの縁が解けるまでに 生きてもいい理由が見つかりますようにと小さく願っていた

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