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魔女の呪い
「ん…ここは…」
見慣れない部屋
僕は気を失っていたのだろうか
「__気づいたか」
「貴方は…?」
「俺はルイ」
ルイ、そう名乗った男は近くにあった椅子に腰かけた
背後を見ると黒い服を着た人が数人立っている
威圧感に支配されたこの空間は頭を覚醒させるのに十分すぎた
「目が覚めたことろ悪いが、いくつか話を聞きたい」
「はぁ…」
「気を失う前の事は覚えているか?」
「えっと…屋敷にいたのは覚えてます」
あれ…
「1人でいたのか?」
「1人…じゃなかったと思います…けど」
「けど?」
あれ?
「誰といたんだっけ…」
「…そうか。話をしてくれてありがとう」
体調がよくなるまでしばらくこの部屋を使うといい
ルイはそう言ってどこかへ行ってしまった
得体の知れない違和感
何かを忘れているような気がするのにいくら考えても思い出せない
僕は誰の事を知ろうとしてたんだろう
「ルイ、さんに聞けば何か知ってるのかな…」
ちょっと怖いけど話が通じない人ではなさそうだったし
とは思ったまではよかったんだけど
ルイさんと初めてあった日から数日経ったけど1度も会えずにいた
というか姿さえ見ていない
僕と年齢は遠くなさそうな見た目だったけどそんなに忙しい人なのだろうか
このままではいつ話ができるか分からない
しびれを切らせた僕は部屋を出た
廊下に出て遠目に黒い服を着た人が見てたので、その人に聞いてみることにした
「あの、すいません」
「どうかしましたか?」
「僕、ルイさんに話があるんですけどどこにいますか?」
「今ここにはいないです。夕飯の後ならもしかしたら時間があるかもしれないので聞いてみます」
「あ、ありがとうございます」
「体調は良くなりましたか?」
「まぁ…おかげさまで」
「ならよかった。あの事件の唯一の生還者なのでちょっと気になってて…」
「え…?」
「あっ…僕そろそろ行かないと!じゃあ!」
ばつが悪そうな顔をして慌てて黒服の人は僕の前からいなくなった
事件の、唯一の、生還者…?
あの館には僕意外にもいた。その人達は死んでしまった…?
窓ガラスがいきなり割れたのは覚えてる
でもその場にいたのは僕と…あとは、たぶん1人だけしかいなかった
僕が倒れいる間に何かがあったのだろうか
衝撃な事実に呆然とするしかなかった
「それで。話というのは何だ?」
「…教えてください。僕は唯一の生還者と聞きました。その事件について」
「知らない方がいい事だってある」
「…けど。僕には知る権利があります」
「分かった。全て話そう」
館の主、エマ・ローランは美しく強い魔法使いだった
気さくで親しみやすい彼女だったが、魔法使いたちの中で禁忌とされている「死の概念」に触れてしまう
「死の概念」によって魔法使いでありながら生気を奪う魔物となり果てた
何よりも美しさに執着があったエマは美しいと感じた人間を拉致し生気を奪っていたという
そして生気を奪われた人間は生きる屍になり、彼女の周りの世話をさせていた
膨大な魔力を持っていた彼女が次にしたことは館を周りの目から隠す事
こうして彼女と美しい屍たちの楽園ができあがった
「エマっていう魔法使いと僕は一緒にいた…?」
「おそらくは」
「なんでエマさんといた事を思い出せないのでしょうか…」
「それは君がエマに心を奪われたからだろう」
「心…」
「魔法使いは心を好む。心を奪われた人間が死する事はないが、奪われた魔法使いに関する記憶がなくなる」
「だから僕はエマを思い出せない?」
「あぁ。だが彼女ほど強い魔法使いなら心を奪って魔力の足しにしなくても事足りるはず。奪う動機までは分からない」
「じゃあ彼女に直接聞けば…!」
「エマは死んだ。我々が部屋に入った時には既にな。そして彼女の傍に君が倒れていた」
「そ、んな」
それが事実なら
僕は「人だったもの」と共にいた…?
気持ち、悪い
「っ…」
「俺は最初に忠告はしたからな」
気を抜いたらすべてを吐きだしてしまいそうだ
なんで、どうして…
「僕を殺さなかったの…」
消えそうなろうそくの火を何度もすくっては蝋が少ないろうそうへ移す
辛い
どうしてこうまでして生きないといけないんだ
嫌だ
誰か、誰でもいい、僕を…!
「殺さなかった?なんでお前をわざわざ殺さないといけないんだ?」
ルイさんは真っすぐに僕を見据えて言った
眉は僅かに中央へと寄っている
嫌悪感が透けて見えた
彼は背後の窓を開ける
生暖かい夜風が通り抜けて髪をさらう
「ここは屋敷の最上階だ。死にたいのならどうぞ、ご自由に」
それは拒絶の言葉
僕の願望を見事に砕いてみせた
あぁ。我ながら馬鹿みたいだ
どうして他人の力を借りないと死ねないのだろう
思えば最初は自分だけで死のうとしてたじゃないか
「…ありがといございます。さようなら」
一気に窓へと駆け出す
窓の縁に手をかけて思い切り飛び出した
重力に逆らう術なんてない
あっという間に、落ちる
願わくば次は今より長く生きられますように
「………痛くない?」
「君って魔法使いだったの!?」
「え…?」
勢いよく飛び出したはずなのに
どこも痛くない
近くには杖を構えたままの黒服の人…さっき廊下で話した人が目を丸くしている
飛び出した窓からはルイさんがこちらを眺めている
「どこか怪我はしてない?」
「特には…大丈夫みたいです…」
「まさか本当に飛び降りるなんて思わなかったけど…まぁとにかく無事でよかった!」
黒服の人が思い切り僕を抱きしめる
抱きしめる力が強くて骨が折れそうだ
苦しくて思い切り背中を叩くと、察したのかパッと僕を解放した
いや。よかったけど…何がどうなってるんだ…!?
内心混乱している僕の背後にいつの間にかルイさんは立っていた
おそらく窓から直接降りてきたのだろう。階段を使ってくるにはあまりにも早すぎる
「ノエル。状況の報告を」
「彼は無傷です」
「助けたのかい?」
「まぁ、そのつもりでしたが…」
ノエル、そう呼ばれた黒服の男は肩をすくめる
「…人間」
「は、はい…」
「俺の挑発を易々と買って窓から飛び降りた野蛮さと勇気は評価しよう」
「や、野蛮って…」
「貶してはいない。むしろ褒めている」
「それなら僕に何が起こったのか教えてもらえませんか?」
「あぁもちろん。君は呪われているんだ。おそらくはエマに」
「呪われて…?エマに…?」
「さっきの状況からすると君は死ねない呪いにでもかかっているんだろう」
「なっ…!?」
信じられない
呪いで死ねないだって?まさか…
でも否定しようにもさっきの事をどう説明ができる?
落ちると思ったから目はずっと閉じていて正直何が起こったのかはよく分からない
けど僕はこの通り元気だし。ノエルさんのあの様子だと彼も僕を助けてはいないようだ
エマ・ローラン
どうして、僕にそんな呪いのかけたのですか?
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