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1章1話 出会い

______これが最後の望みだ。 入部届を片手に、『演劇部』と書かれている札の貼られた扉の前で息を呑む。 かつての天才子役、赤石(あかいし)北斗(ほくと)。彼の演技は人々を熱狂させた。彼が舞台に立てば、そこは別の世界へと変わる。視線を外すことなど許されない。周囲を圧倒させる唯一無二の人材だった。 しかし、彼は一度の失敗からイップスを抱えてしまうことになる。何度舞台へ立とうと試みても言葉が出ない。顔が強張る。たくさんの人に迷惑をかけ、彼は舞台から追いやられた。彼の中に演劇は棲んでいるのに、彼は彼自身を信じられなくなっていたのである。 何度も自問自答を繰り返しくしゃくしゃになった入部届を胸に、扉を開こうと取っ手に手を伸ばした。高校の演劇部に入部する、ただそれだけのことだが、彼には勇気のいる行動だったのだ。 意を決して取っ手を引いたその瞬間、小さな悲鳴が聞こえたと途端に何かが足に衝突した。足元で人が転んでいた。どうやら彼が反対側から開けようとしたタイミングで開けてしまったらしい。縁起が悪いなと思いつつ起こしてやると、転んでいた彼は満面の笑みで微笑んだ。 「ありがとう!」 完全なる偶然だった。 しかし、この小さなハプニングから北斗は肩の力が抜けていた。運命だとか、赤い糸だとか、そういったものを信じているわけじゃないが、北斗にとって救いとなったのはいつだってこの青年であった。

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