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1章2話

南波(なんば)(あおい)。 彼を形容するならば、純真無垢、お人好し。ただのアホだとか、脳内花畑である、と表現する人もいるだろう。器用で何事もうまくこなすがどこかドジを踏んでしまったりやたらと運に恵まれない。天然も含んでいるため理解されない。ほっとけない空気がありつつも実際男らしい一面もある、なんとも不思議な青年だ。しかしながら、そういった裏表のない人柄と小柄で絶えない笑顔から、彼は多くの人々に愛されていた。 演劇部に入ったのは、そのときの気まぐれであった部分が大きい。興味は元からあったのだが、日々多くのものに関心を抱く彼はコロコロとやりたいものが変わる。丁度入部届が配られたその瞬間やりたかったことが演劇だったのだ。 迷いなく演劇部の部室へ赴き、顧問へ入部届を提出する。今日は休みだと告げられ、失礼しましたと挨拶をしそのまま退出しようと扉の取っ手を掴もうとしたその瞬間、扉が動いた。 「えっ」 手は空をきり、前傾の姿勢のそのまま倒れた。何とも情けない。目の前の人に大丈夫かと手を差し伸べられ、ありがとうと告げて立ち上がる。少しして、彼が扉を開けたのかと理解した。 (恥ずかしいところを見せちゃったな……) 入部届を持っているあたり、彼とは今後も顔を合わせるのだろう。手を差し伸べてくれたこともあり、彼は優しそうだと南波の単純な思考は結論を出した。一緒に帰ろうと、彼が部室から出てくるのを待った。数分も経たず彼が出てきたところへ声をかける。 「ね、ね。いち、ねんせい?だよね。演劇部入るの?俺もなんだあ」 待っていたことに驚いたのか、彼はまじまじとこちらを見ていた。人見知りなのだろうか、返答がないためこちらも見つめると、彼の顔はどこかで見たことある顔であったことに気がついた。 「もしかして、俺と会ったことある?」 何も考えないナンパのような声の掛け方に、相手が吹き出した。なぜ笑われているのかわからない南波に、揶揄うようにして彼は「誘ってんの?」と聞き返した。一緒に帰りたかったんだと思い出した南波は、「よくわかったね!?」と素直に感心する。ズレているのかズレていないのか微妙なすれ違いに相手の緊張も解けたのか、今度は相手の方から声を発した。 「……俺は、赤石北斗っていって……小さい時に役者してた。見たことあんならそれじゃないですかね。」 「あぁ!なんか聞き覚えある!そうなんだ!すっごい」 ペラペラと浮かんだ言葉を垂れ流すと、何が相手のツボにハマったのか意味ありげに微笑まれた。優しげな目に少しどきりとする。 「なにか変なこと言いました?俺。」 「いや、すごいとか俺には似合わないんだけど……へこむ前にお前が素直なんだなって方がすげえ伝わってきた。」 あまり演劇について知らない人が聞き覚えある役者って、相当すごくないか。と似合わないという彼に対し疑問を抱いたが、今は同じ高校に通う同級生だ。そういったことも、どんなことでもいろんなお話をしたいなと思った。 「俺は南波葵。C組。よろしくね、赤石くん!よかったら一緒に帰ろ?」 「北斗でいい。よろしく、葵。」 赤石北斗は、近付きにくい雰囲気がある。人懐っこい南波葵だからこうしてすぐに打ち解けられたのだろうか。少なくとも北斗にとっては、葵の隣はすごく居心地が良かった。

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