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1章11話

オーディションは、役ごとに第一希望の人が部内で演技をして部員で投票、落ちた人は同じことを第二希望、第三希望がまだ空いていたら行うという形だった。 メインの役として、主人公は副部長の沼川先輩、ヒロインは葵、ライバルは東雲翼。 東雲に関しては、第一希望は彼しか居らず否定意見が出なかった。演技力への心配はあったが、容姿でみんなが東雲がやるだろうなと頭の隅にあったようだ。高身長と整った顔立ちがピッタリだったから。知らず知らずにみんな避けていた。対して東雲はまるでそのことに気付かずラッキーだと喜んでいた。 葵は妥当だった。他にも二人第一希望にしていたが、演技力に関しても葵は引けを取らない上女装をする。そうなるとみんなまあ見れるだろうという人に投票をする。大差をつけて合格。葵はまじかあと言いながらすね毛を剃るかタイツを履くかの相談をしてきた。知らん。 副部長は、明らかな癒着だ。他に四人の第一希望者がいたが、副部長以外は全員が一、二年生だった。そして集団戦なのかと理解した。演技力もさしてないはずなのに、他は票がばらける中三年が全員副部長に投票し、役を掴んだ。 そもそも県大会行く気なかったのかよとオーディション方法もなにもかもびっくりの結果になってしまった。地区大会数ヶ月前に台本が配られたのはのんびりとやりたいかららしい。だからといって俺らが全力でやることには変わらないのだが。 「役作りってどうしてた?」 「そのキャラの所縁のある土地に行ったりだとか、好きなことをしてみるとか、人をとにかく恨んでてナイフで刺す役とかなら実際に」 「えっ」 「人形とか買ってとにかく痛めつけてた」 「よかったけどよくない……」 眉を寄せたまま胸を撫で下ろし顔が青くなるという複雑です!と思いっきり書いてある顔が面白い。こんなにも思ってること顔に出るやついるんだと笑ってしまいそうになる。そんなつもりはなかったのだが、からかうのが楽しい。 「でも人によってはあんまり固めすぎると周りと息合わせられなくなることもあるからそれは適正見ない限りなんともいえない。演出家とか監督が考えてる全体の形もあるだろうから、相談して考えるのも大切にすべきだ。」 「うちははっきりとした監督はいないけど兼ねて演出家として2年の水瀬先輩が受け持ってたね。舞台だと構図とかも大切そうだからなあ」 葵が素直に受け取ってくれるから説明が楽だ。こいつは周囲をみれるから自分の中でこうだという形を作って全体練習の時に周りと合わせていくというのもありだろうと考え伝えると、わかった!と元気に返事された。ついでになぜかその反動でやる気のある小学生の授業中の挙手のように勢いよく手を挙げ、バランスを崩して椅子から後ろへ倒れるというミラクルを起こした。こいつは本当に大丈夫だろうかと、突然不安になった。 「じゃあ明日土曜だし、一緒にお買い物行かない?」 「……は?」 じゃあと言っている割に脈絡が読めなくて驚いてしまった。だめだった?と聞いてくる。そうじゃない。 「いや、なんでそうなったんだろうって」 「あ!ええっと、ヒロインって主人公好きだけど脅されてライバルと一緒にいるから、ずっと嫌な気持ち持つのかだんだん諦めるのかとか楽しくなってくるのかとか、知りたいなって」 「俺と一緒に行くのに嫌な気持ちで来るつもりなのかよ?」 「あ、えっ?そうじゃなくて、ああ…」 おろおろと混乱してる葵が可愛くて思わず頭を撫でた。 「ごめんな。わかってる。じゃあ俺はお前脅してる気持ちで行く」 「ありがとう、楽しみ!」 にまにまと笑みが抑えきれていない葵を見てこちらもつられて微笑みが漏れる。きちんと台本を読んでライバルのことを理解していかなければ、と意気込んだ。

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