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1章10話
毎度葵の家にお邪魔させていただくのは流石に忍びないため、部活の早く終わる水曜と金曜は教室で葵と練習をする。そんな習慣が出来上がっていた。
「結局、なんの役やることにしたの?」
「第一希望はヒロインになった。あのあと沼川先輩がこれやってって言いに来た。」
沼川先輩____副部長のことか。と思い浮かべる。副部長が書いた台本で副部長を感じさせる主人公。考えすぎだとは思うが、わざわざ葵に指名しにくるあたり、背中にぞわりとした。
「……やめといた方がいいんじゃないか」
「まじで?俺わかりましたって言っちゃった」
極力近付けさせないようにしよう、と心に決める。オーディション用に役の重要どころの台詞がピックアップされており、それをこれから各自で練習するという段取りとなる。
「第三希望くらいまではある方がいいな。第二希望は?」
「主人公」
「メンタル強えな」
褒められたと思ったのか葵は得意げに胸を張った。アホなのか。絶対に第一希望で殺到するし先生に三年優先を仄めかされているというのに。貪欲でいいことなんだろうだけど。
「じゃあ今日からオーディションの練習するわけだけど、ヒロインと主に関わるのが主人公とカーストトップのライバルか。」
「そう、だね。このヒロイン俺まだ理解できないわ」
「主人公が好きだけどライバルに脅されて一緒にいるって設定だな。優勝賞品みたいな扱いはされてるけど、扱いは雑だな」
ざっくりと台本に目を通すと、主人公がとにかく絶対的正義だ。
ライバルは何かあればすぐに暴力を振るい金に物を言わす。ヒロインは主人公を殴ると脅され我慢して主人公のためにライバルと共にいる。主人公はカーストこそ底辺でパシられまくるのだが、歌に自信があった。文化祭の舞台でカラオケ大会が行われる。ライバルはなぜか主人公が歌が上手いことを知っており、主人公を舞台に出させないよう空き部屋へ閉じ込める。そしてライバルはその後舞台に立ち歌って高評価を得る。主人公は自力で脱出し、終了直前にやってきて最高の歌を披露し一躍ヒーローとなる。そこへヒロインが出てきてヒーローに告白し、二人は晴れて付き合うことになる。
脅しはどうなったんだよ、とか色々とツッコミどころがある。なぜこれで許可が出たのか。顧問がぽんこつだからか。
「難しいけど折角書いてくれたから沼川先輩の考えてる劇に近い形にはしたいよね」
「県大会には進めないと思うぞこれ」
そっかあ、と悲しそうな声がしたと思ったが、顔を見ると真剣な目で何か考えているようだった。
「どうしたの」
「どうしたらいい劇になるかなって」
前向きで純粋な返答に思わず笑った。そうだった。いい劇にすること、とにかく俺らはそうする他ない。
「まあオーディションを先に受からなきゃいけないけどな?」
「はは。確かに。付き合ってくれる?」
「もちろん。」
台本を手に取り、役の形を作る。
____気付けば、別人となっている。
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