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1章9話

2週間が経ち、演劇の地区大会に出るための台本が配られた。役は1週間後にオーディションをして決まる。 「一年に一回しかない大きな舞台だから、できる限り3年にいい役を回したい。でも下剋上として実力があれば3年を落とすことももちろんする。好きな役選んでおいて。」 顧問の先生が簡単に説明をした。普段ぽんこつと言われているに相応しく、オーディションの方法など何一つ情報を落としてはくれない。一年に手厳しい。多分忘れているだけだけど。ちなみに指摘すると顔を真っ赤にして言い訳をし始めるのでなんか憎めないけど時間の無駄だ。パラパラと台本をめくっていると、後ろから誰かが覗き込むように影が差した。 「……主人公とか受けないの?」 紫月先輩だった。 「受け、ません」 「そっか……」 紫月先輩は少し目を泳がせた後、気まずかったのかすすすっと遠のき、2年の先輩達と仲良く談笑を始めた。たまにこうして話しかけにきては何もしないまま去っていく。俺以外とは楽しそうに話をする。イライラさせにきているのだろうか。そう思いながらその背中を睨んでいると、背後からたたた、と地面を蹴る音がした。振り返ると子犬のようにわくわくした様子で葵がこちらへ駆け寄ってきていた。 「北斗くん、台本来たね!」 「おう。よかったな」 尻尾でも振ってるのかと思うくらいににこにこと嬉しそうにしている姿に思わず顔が綻ぶ。どれ受けるのか尋ねると、まだ決めてないと明るく返してきた。北斗くんと決めようと思って、とかわいいことを言ってくる。 「紫月先輩と何話してたの?」 「俺が主人公やらないか聞きにきた。気になるなら自分でやればいいのにな。」 「ああ、先輩は前回、大道具とかすごい頑張って時間取れなかったらしくて。本番直前まで台詞覚えられなかったとかでみんなに迷惑かけたから、今度から3年の先輩に照明を習ってそっちでやっていくって言ってたよ」 なぜ葵がそんなに詳しいんだ。驚きが伝わったのか葵が補足する。 「んえっと、俺結構紫月先輩と仲良くさせてもらってるんだ。あの人優しくて話し上手で聞き上手だから居心地いいんだよね。」 そのどれも体感していないので何もピンとこない。誰の話を聞いても葵は何かしら情報を持っているから、純粋に葵が社交的なだけだとは思うが、仲良いのか。とどこか複雑な気持ちが湧く。もっとも、今一番嫌な気持ちになる人間ではないが。そんなことを考えていると、まさにその今一番嫌な気持ちになる人間が声をかけてきた。 「葵、赤石。役決めた?」 ____東雲翼。最近になって、葵と一緒にいる時に話しかけてくるようになった奴だ。今日もやたらと身長と顔面が強い。自然な流れで葵の肩に手を回す。葵も特になんの反応もしないあたり慣れているようで、それがまた気に食わない。 そもそも、明らかなやる気のなさと葵からの助けを無視する態度が気に入らなかった。だが彼らはずっと一緒にいるらしく、葵の教室に行けば必ずこいつ含む複数人で一緒に話していることから部活の時間と放課後以外全く葵と会話ができない。さらには部活でもこうして葵と話してる時に邪魔をしてくるようになった。正直に言おう、うざい。こいつの何もかもが気に食わないのだと悟った。 「葵は多分この役当て書きだと思うんだけど」 「えっ、ヒロインじゃん。女の人がやるんじゃないの?」 「ここ男子校なのに女の人がやるわけないだろ」 「俺やったらコントじゃん」 「他の人のがコントだって」 楽しそうに笑いながら葵と東雲翼が会話をしている。東雲翼は、毎度に話しかけにきて気付けば俺を忘れているのか葵だけに話している。邪魔でしかない。 「近年は女役ある台本作ってないんだって。今回できたのお前が入ってきたからだろ」 「似合いそうだと?」 「そういうこと」 むむむ、と葵が考え込んだ。余計なこと吹き込むな。折角俺と役を決めようと来たのに。 ただ苛々とその会話を聞いていると、葵がチラリと俺を見た。 「北斗くんはどう思う?どの役やる?」 「えっ、二人で決めようとしてたの?仲良いな」 俺に振ったのにまたも遮られた。なんなんだこいつは。 今回の台本は、スクールカースト底辺がスクールカーストトップを歌でギャフンと言わせるという海外ドラマチックなものだ。副部長が書いた脚本らしく、主人公からどこか副部長本人を感じる。 「俺は……、今回は裏方に回ろうと思う」 「えっ、そうなの?」 「まだお前と二人でも集中しきれてないのに、舞台に立てる気がしない」 素直にそういうと、葵はそっかあ、と残念そうに顔を曇らせた。対して東雲翼は北斗って舞台上がらないんだ、と口に出して復唱した。こんなにも違くて、何故こいつらが仲良いのだか。

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