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1章8話

__何かまずいことを言ってしまったらしい。 じゃあ、と駅まで送ってお別れをする。即興劇の練習から北斗くんは心ここに在らずだった。嫌なことを言ってしまっていたりしたらどうしようと悶々としながら家路を辿っていると、ブブブ、とポケットに入っていた携帯が振動した。 (……!東雲だ) 慌てて取り出し電話に出る。少し不機嫌そうな東雲の声がした。 『お前忘れてただろ』 「忘れてはない……けどちょっと他のことしてた!ごめんなあ』 『まあいいけどさあ』 先に東雲に北斗くんと今日は会うと伝えるべきだったと反省する。東雲の言いたいこととか北斗くんの態度とか、図らずしも一気に考えることができてしまった。 『夕飯まだだったら一緒に食べん?』 「あー、今日はお母さん作ってくれてるからまた今度誘って!ていうか言いたいことあるんじゃないの?」 『んー、まあ……』 言いにくそうな東雲の声色に心配が募る。深刻なことなのだろうか。それか、言っていいか悩んでいるのか。 「俺は、東雲の話いつでも聞くつもりだけど……、言いにくいなら、このままだらだら話そ?話したいタイミングで言い出せる?」 『お前気遣い屋だよなあ、ありがと。ちょっとだらだら話そ。』 今日合ったことだとか、課題についてだとか、どこのご飯屋さんが美味しいかだとか喋っていると、不意に北斗くんの話になった。 『なんか俺あの人にめっちゃ嫌われてる気がするんだよなあ』 「えぇ、なんかあったの?」 どうやら直接的に話したことはないらしいが、はじめての部活からなんとなく目が厳しいらしい。 「北斗くん吊り目だからそう見える、とかじゃなく?」 『違う。だってお前見るとき目優しいもん』 そうなのか、と思わずどきりとする。好意的に思ってくれているならそれほど嬉しいことはない。初回の部活と考えると、そういえば東雲と俺が即興劇をしたなと思い当たる。俺ははじめてのことで十分に楽しかったが、東雲は楽しんでいるようには見えなかった。ふと、先程の即興劇からの呆然とした態度を思い出した。北斗くんは演技に対してかなり思い入れがあるのかもしれない。 そんなことを考えてると、東雲から想定外の言葉が飛び出す。 『俺嫉妬されてると思う』 「え?なんで」 『お前と仲良いから?』 何を言っているんだろうと思いつつ、少しわかるところがある。北斗くんはあまり人と関わるタイプではないようで、人に対し常に距離がある。だが好意があると言われ思い返してみると、俺に対しては割とスキンシップを取っていた。仲良い人が他の人とずっと喋ってると入りにくくてモヤモヤするのはよくあることだ。 「東雲と北斗くんが仲良くなればいいんじゃん、今度北斗くんとお話ししようよ東雲も」 『まじ?そうなんの?ポジティブだなお前。頑張ってみるけどさ。』 「ありがと!」 東雲も俺と同じで人と距離が近いタイプだからできるはず、もし難しかったら無理にとは言えないけど。そう思って提案をすると軽く笑って了承してくれる。そんなこいつが悩んでいることがあるかもしれないというのがとても悲しい。そんなことを考えながらも、だらだらと中身のない会話を続けていた。 『俺そろそろ風呂入るから切るな』 「えっ、悩みとか大丈夫だった?」 『また言いたくなったら言う。ありがとう。なんかずっと話しててすっきりはした』 「お、おお。ばいばい?」 『ん、ばいばい!』 そう言ってプツリと電話が切れる。声色は明るくなっていたが、なんだか間違えてしまったような心残りがどこかに残った。

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