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1章7話

放課後、俺は葵の家に来ていた。 「ただいま!」 「お邪魔します。」 おかえり、と葵のお母さんの声が響いた。想像通りの明るくて優しそうな人だ。 「あとでジュース持っていくから、頑張ってね」 「ありがとう!北斗くん、俺の部屋こっち。」 昨日演技の練習をしようという話になり、とんとん拍子に葵の部屋へ呼ばれている。行動力がすごい。部屋は物がたくさんあるが汚くはない。カラフルな人を選ぶ部屋だという印象を受けた。 「お前は……とにかく明るいなあ」 「服とかめっちゃ好きだから自然と色数増えんのかも。座って座って。」 机脇の座布団に座り隣の座布団をトントンと叩いて招かれる。東雲との電話はどうしたのか聞くと、夜にする、と返答が返ってきたため少しいじめたくなってじゃあ泊まろうかななんて冗談を言う。すると葵はぱああ、と効果音がしたのかと思えるほど嬉しそうに顔が綻んだ。すぐさま冗談だと伝えたが、オープンすぎやしないか、こいつ。 最初は一緒に学校の課題を解いた。正直俺は頭が良い方ではない。答えを映すダメなタイプの生徒だが、葵が目の前でちゃんと解いているので解かざるを得なかった。難問が出てすぐにこれどう思う?と聞いてくるが俺の方がわからないので結局葵が自力で解法を調べていた。こいつの場合答えは自力で見つけられるけどただ会話したいがために聞いてきてる気がした。めんどくさいと同時に可愛い。 30分ほどして課題が終わり、即興劇の練習へ入ろうと言う話になった。 「そういえば、なんでうちの演劇部って即興劇ばっかしてるんだろう?台本まだ決まってないから?」 「それもあるだろうし……、照明も音響も初心者って言ってたから、多分舞台上だと演者が皆のフォローするんだろ。本番で初めて機械に触れるやつが多いから失敗しても演者の方で咄嗟にアドリブを回して誤魔化すみたいな。まあいずれ決まったセリフでの演技練習もするだろ」 なるほど、と葵が頷く。復習ということで、今日やったイエスアンドをすることになった。 「葵は、60歳の御老人。毎日鳩に餌あげてるけど近所のガキとかにはすぐに出てけって叫ぶ子供嫌い」 「じゃあ北斗くんは、6歳の赤ちゃん」 「6歳の赤ちゃん?」 「間違えた……、6歳の小学生で、魚愛好家。常にお魚の研究をしてる。」 発想が斜め上で性格について掴み所がわからないが、常に魚の研究をしているというのは周囲の子と一線を引いていそうだ。真面目な子なのか不思議な子なのか。 「場面はどうしよっか?」 「公園とかで葵が鳩に餌をやってるところに俺が突っ込んでいくとかはどうだ?」 わかった!と葵がスイッチを入れる。すぅっ、と息を吸って、怒声が始まった。 『こんなところで何をしている!邪魔をするんじゃない!俺の撒いた鳩の餌を拾い集めるなんて、なにをしてるんだ!』 ぱっと触れてもいなかった俺の手を叩いた。豹変ぶりに少しショックを受けた。あんまり葵の口からこういうのは聞きたくなかった。何も考えずキャラ設定つけたのは俺だけども。そしてイエスアンドのために俺のした行動を明確にしてくれたのだろうが、おかげで俺がすごいトリッキーな少年になっている。 『この餌、お魚にもあげたくて……。うわっ、風が……!』 ぶわわ、と手に持った餌が飛んでいってしまう。それを見て葵は涙目で必死に手を伸ばし空に舞う餌を掻き集めようとする。 『わ、わしの鳩の餌!!!待ってくれ!』 思わず吹き出してしまった。 「んな必死に……っ」 「あっ、戻った」 ぷくっと葵の頬が膨れた。一瞬で終わってしまって不服らしい。 「悪い、もう一回やるか?」 「……北斗くん、あんまり集中できてない?」 そういって葵が首を傾ける。 意識はしていなかった。気付いてもなかった。いや、薄々勘付いていたのだろう。 どきりと、図星を当てられたかのように、俺は静止した。

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