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6勅命

 聖騎士団長ハルバースタムと、まさかの団長室にあっさり居座っていたクラリシス王国国王アーシアはイオを抱えたままヴェルジークの報告を聞いていた。  騎士であるハルバースタムはアーシアの後ろに、ヴェルジークは正面に立つ。 「なるほど、この世界には神の理の人智を超える力が働いている事もある。お前のような異界人が、どこからか湧いて出てきても不思議ではなかろう」 「オレのこと信じるんですか?突拍子もない話なのに・・・」 「予を誰だと思っている?人類の頂点に立つクラリシス王国の支配者である。不測の事態の1つや2つでたじろぐ事はない」  アーシア陛下は見た目は派手な容姿で偉そうだが、20歳という若さで大国を統治している。中身は思ったより思慮深く寛大な人柄であるようだ。  後ろに控えるハルバースタム団長が大声で口を割る。普通に喋っても大声だ。 「陛下!この者の処遇はいかがなされますか。魔剣を操る者など、我が騎士団で預かるわけにもまいりません。地下牢で監禁がよろしいかと!」 「・・・・ッ」 「ふむ、魔剣は今どうなっておる」 「ハッ、魔剣は降臨の神殿にてそのままの現状を維持しております。今もなお瘴気を放出しており、触れる事もなりません」 「しかし、イオは触れる事ができるのだな?」 「そのように推測しております」  アーシア陛下は、膝に抱えたイオを美しいエメラルドの瞳で見ると何やら考え込む。 「あの・・・」 「聖剣ではなくなったようだが・・・正直予は、お前と魔剣を両方手にしたい」 「は、はぁ・・・」 「魔剣とはいえその強大な力に、他国も異種族さえ畏怖するであろう」 「オレは・・・戦争の道具じゃない・・です。誰も傷付けたくない」 「・・・」 「うっ」  一国の王様に反論していいか迷うが、自分は誰かを傷付けたりするのは嫌だと思い意を決してみる。予想通り美貌に射殺されそうな顔をされたが、アーシア陛下は不敵な笑みですぐ元の顔に戻る。 「やはり、お前だけでも今すぐ予のものに」 「なりません」  アーシア陛下の不埒な発言に、ヴェルジークは即却下した。ヴェルジークは国に仕える騎士の身であるのに、臣下としてあるまじき反論で罰せられないのだろうか。イオはヴェルジークを心配した。 「白々しいぞ、ヴェルジーク。この場で、お前の不純行為を赤裸々に暴露してもよいのか」 「陛下の不純行為には到底及びません」 「ワハハハハハ!」  険悪なムードは避けたようだが、真面目そうなヴェルジークが不純行為はあまり想像出来なかった。地下牢でイオに手を出してはいたが、その後はあくまで紳士的な態度だ。 「では、やはり魔剣をイオに持って来させ扱えるかを考察する必要があるようだな。ここで一存するわけにはいかぬが、明日編成を組んで魔剣探索の勅命を出すことにしよう」 「それがよろしいですな、陛下」 「承知致しました」 「ところでイオ、先程の話だがお前はどこまでされたのだ?」 「えっ?」  イオは自分には難しい話だとなんとなく話を聞いていたが、アーシア陛下に突然自分に話題を振られて素っ頓狂な声を出した。  アーシア陛下は、イオの手首を掴んで擦っている。 「あの、どこまでって?」 「男を受け入れられる身体になったのか?」 「ーーーー!!!!」  イオは直球の質問に顔を赤くして、口をパクパクさせた。 「ヴェルジーク、どうなのだ?」 「・・・残念ながら、そのような事は一切しておりません。陛下のお遊びに付き合う酔狂さは、持ち合わせておりませんので」 「なんだ、お前が手を出さない予想はしていたが真面目で使えぬ男だな。と言う事はイオはまだ生娘も同然と言う事か。うむ、お前を手に入れた時の楽しみが増えた」 「・・・・ぅ」  イオは何嘘ついてるんだという顔でヴェルジークを見ると、彼は真顔のままだった。 「陛下、イオは今夜地下牢で私が見張り番を致します。よろしいでしょうか」 「予の寝室でもいいのだぞ」 「お立場をお考え下さい。不用意な発言はお控え願いたい、アーシア=レイド=クラリシス国王陛下」 「嫌味らしくフルネームで呼ぶな、氷の鉄壁騎士め」  バチバチと2人の美形の目から火花が飛び交っているのが、見える気がした。ハルバースタムはアーシア陛下を護衛し、居室へと送り届けるため部屋を出た。  残されたイオは、気が抜けてソファーに埋もれる。その髪をそっと、ヴェルジークが撫でた。 「イオ、大丈夫か」 「う・・・はい。気が抜けちゃって」 「無理をさせてすまない。まさか陛下がお忍びで部屋に居るとは思わずに」 「王様って自由奔放そうだけど、しっかり国の事考えてるんですね」 「まぁ、あの性格を除けば我が国を繁栄させた立派な君主ではあるな。それより、今夜は地下牢で過ごす事になり申し訳ない」 「あ、いえ、大丈夫です。キャンプで野宿とかもした事あるから」 「イオは冒険者なのか?」 「え?あぁ、違います。遊びでとかで」 「そうか。もし君が我が国の脅威でないと証明できて、自由になれた時は一緒に遠出しよう」 「いいですよ」  イオはそうなれたらいいなと、笑顔で答えた。ヴェルジークはその笑顔を見て、少し表情が和らぐ。 「それと、私のことはヴェルジークと呼んでくれ。敬語もいい」 「えっと、・・・うん、ヴェルジーク」  その夜イオは地下牢で過ごす事になり、今度は簡易的なベッドが置かれて眠る事が出来た。風邪ひくからいいと言ったのにヴェルジークは毛布にくるまり、剣を立てたままイオが眠るまで側に居るのだった。

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