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15メイドは見た
テーブルマナーにあるまじき昼食を終えると、ヴェルジークは再び執務に戻っていった。イオは屋敷の警備箇所を、ティオドールについて回り教えてもらう。
「イオさん、貴方の事情は旦那様よりある程度聞いてはいます。ですが、形だけとはいえ身辺警護という名目上やはり護身術等はある程度備えねばなりません。何か武術はしていましたか?」
「いえ、学生時代は部活してなかったし」
「なるほど。しかし、魔剣を使ったと聞いていますが」
「えーと、アレは魔剣が勝手にといいますか・・」
「では明日、魔剣を使った剣術指南を手ほどきしましょう」
「えっ・・・」
魔剣であるケンさんが勝手に暴れないか心配になる。
「ご心配なく。私も元は騎士としてそれなりの技量はあると思いますので」
「はぁ、わかりました」
イオは今夜、ケンさんに無茶しないようによく言っておこうと思った。
屋敷の中をある程度案内されると夕刻には部屋に戻れた。途中で気付いたが、この世界には時計が存在する。ゼンマイ式のようだが、アンティークな柱時計や懐中時計が主流のようである。とはいえ時計は高価なので一般市民には持てない代物だと、ティオドールが言っていた。時計塔がある町もあるようだが。
そして部屋のドアを開けて休もうとすると、中に人が居てびっくりする。
「えっ!?え、誰!」
白シャツに黒スボンのラフな軽装に、ショートカットの緑髪に切れ長の金目のイケメンが立っていた。
「ごめんなさい、貴方の部屋から声が聞こえたので泥棒かと思って」
「え、あっ・・・そうなんですか。泥棒、怖いな、あはは」
ケンさんをチラッと見ると、察したのかケンさんも沈黙していた。
「貴方が新しい使用人の子ですか?」
「あ、はい。オレは、イオです」
「私は、ロゼット=シーナリー。屋敷の使用人です。どうぞよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
ロゼットさんも執事か身辺警護なのだろうかと考える。今はラフな軽装だが執事服が似合いそうなイケメンだなと思って見ていた。
「私の顔に何か?」
「あっ、なんでもないです!」
「そうですか」
「イオ、居るのか?」
その時開いたままの扉から、ヴェルジークが覗き込んで来た。
「あ、ヴェルジーク・・様」
「旦那様」
「なんだ、ロゼットも居たのか。二人で何をしているのだ?」
「はい、先程イオさんの部屋から不審な声が聞こえたので確認していました。侵入者であればすぐわかるのですが、気配もないので今の所は大丈夫かと」
「それは屋敷の警備に気を配らねばならないな。イオ、今夜は私の部屋で寝なさい」
「えっ、いや、大丈夫だよ!・・・です」
使用人の前でまさか屋敷の主人と寝るわけにはいかない。するとまたしても過保護発言で、ヴェルジークは食い下がって来た。
「では私がイオの部屋で寝よう」
「ええっ!?」
「私の部屋が落ち着かないのだろう?」
「本当に大丈夫です!」
「では私がこちらに泊まりますか?旦那様のお手を煩わせるわけにはまいりません」
「ロゼット、それはそれで問題がある」
「ロゼットさんでもいいですよ?」
ロゼットは同じ男なのだから問題ないだろうと思ったが、なぜか断固拒否された。
「ロゼットはうちのメイドで、女性だぞ?」
「えっ!?」
「はい」
「それは確かに問題だね」
イケメンなロゼットがまさか女性とは思わずそれは確かに問題だと納得した。
結局その夜やって来たのは、昼間に助けた少年エオルだった。ヴェルジークも大人しいエオルならと渋々承諾する。ベッドは狭いのでエオルは床に寝ると言いさすがに同じ使用人としていたたまれなくて、狭いベッドだがなんとか2人で横になった。寝る時まで頭にバンダナを巻いている。
「そういえば、エオルくんって何歳?」
「・・・16歳です」
「予想はしてたけど、歳下かぁ。オレは21歳だよ」
「そ、そうですか・・」
「エオルくんって、どうしてここの使用人に?」
「えっと・・・旦那様に・・3年前に拾ってもらいました」
「へぇ」
エオルは口下手なのか会話があまり続かない。あまり質問攻めも可哀想なので今日のところは寝る事にした。
そして2人をドアの隙間からそっと覗く人物が一人廊下に息を潜む。
「旦那様、何をなさっているのですか?」
「ーーーーッ!・・・ロゼット、驚かせるな」
「覗き見ですか?旦那様が心配なさる事は何も起きないと思いますが」
「エオルは良い子だが、男だ。男と男・・・ベッドで2人きり、間違いが起こったらと思うと眠れないのだ。やはりここは私が添い寝を」
「駄々こねていないで、寝室でお休み下さい。私が見張っておきますので」
「・・・くっ。仕方ない、ロゼット任せた」
「はい。お休みなさいませ、旦那様」
何度も後ろを振り返り自室へ戻る主人を見送りながら、ロゼットは扉を閉めてドアの前で座り込む。そして夜通し見張り番をするのだった。
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