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21素直に言えた
イオとヴェルジークが身体を重ねてから3日が経っていた。実は次の日、ケンさんの相手をしてあげられずに拗ねてしまいご機嫌取りのために剣を磨いてあげていた。
「ケンさん、機嫌直してよ」
『イオの浮気者めー!我が夜通し待っていたのに、よもやあの変態の手篭めにされているとは!』
「・・・それは言わないでくれ」
『やはり今からでも、あやつを魚の餌に・・』
「そんな事したらケンさんを漬物樽に詰めて、埃だらけの部屋に放置するから」
『き、キチク放置プレイ!さすが我が魔王・・・はぁはぁ・・・』
「ところで、オレの前世の魔王ってどんな感じだったの?」
『ふむ、一言では収まりきらぬ偉大さだがあえて言うなら・・・唯我独尊』
「・・・ただの俺様じゃない、それ?」
『そうとも言うが、またそこが良いのだ!』
「・・・そうなんだ」
唯我独尊から連想するに、イオはとりあえずいい魔王ではないような気もするがケンさんが認めるくらいだからそれなりの魔王ではと前向きに思う事にした。
『・・・・そして誰よりも優しく、最後は勝手に一人で消えて勇者に敗れて勝手に死んでいったのだ』
「・・・・え?」
『今となっては真意はわからぬが、きっとあやつは誰も傷付かぬ世界を望んでいたのだろう。あえて自分が悪に徹し、人間の脅威から我らを守っていたのかもしれぬな』
「・・・」
『お前は、あやつではないが生まれ変わっても我の魔王なのだ』
「ケンさん・・・」
ケンさんが魔王をどれほど想っているかはまだ理解できなくても、今も大切に想ってくれている気持ちはイオは嬉しかった。そっとケンさんを抱き締めてやる。
『ウヒョおおお!我が魔王の抱擁たまらん!』
「・・・・・・・」
この魔王大好きすぎてたまに変態になる魔剣でなければ、もっと労ってあげられたかもしれないとイオはちょっと引いた。
「さてと、そろそろ仕事にいかないとな。その前にお昼ごはん食べようか」
『うむ!今日は我はやる気に満ちているぞ!』
「じゃあ、ケンさんには漬物切る包丁代わりに働いてもらおうかな」
『ぬぉッ!?よ、よかろう、どんな仕打ちもそなたの愛と思えば耐えられるのだ!』
「ハハッ」
イオは屋敷の使用人としての仕事をする前に、食堂へ行こうと部屋の扉を開けた。
「ひゃっ!?」
「ん?・・・・エオル、何してるの?」
目の前にすぐ、同じ屋敷の使用人であるエオルがおどおどしながらあたふたしていた。エオルは相変わらず頭のバンダナを深く被っているので、目は見えない。
人見知りらいしので、多分恥ずかしいだけだと最近はわかってきた。
「ぁ、あの・・・イオは、ご飯まだかなって・・」
「誘いに来てくれたのか?ありがとう、じゃあ3人でお昼食べようか」
「え、いいの」
「みんなで食べる方が楽しいだろ?」
「ぅ、うん!」
「行こう、エオル」
「ぁ・・・・」
イオはエオルの手を繋いでやると、歩き出す。エオルはもじもじしながらも、ギュっと握り返すと後を着いて行った。
使用人用の食堂では、メイドのロゼットが食事の準備をしていた。ロゼットは見た目こそイケメンだが、れっきとした女性である。人間と魔族のハーフらしい。メイド服を着ていても、イケメン青年が女装しているようにしか見えない。
「おはようございます、ロゼットさん」
「おはようございます、イオさん。お加減はどうですか?」
「はい、すっかり元気になりました!ご迷惑おかけしてすみませんでした。今日からはちゃんと仕事に励みます」
「謝ることはありません、旦那様が無体を働いたせいなので」
「ぅ・・・・すみません・・・」
使用人達は薄々何があったか気付いているが、イオを気遣ってかそれ以上は詮索してこないところが助かった。さすが出来るメリュジーナ侯爵家のスーパー使用人達である。
「エオルも一緒なのですね。珍しい」
「うん・・・おはよう、ロゼット」
「おはようございます、エオル」
昼食は、4人で食べる事になった。途中でティオドールが客人を連れてやって来た。聖騎士団のフリエスである。
ツーブロックの赤毛が似合う爽やかそうなイケメンだ。ドサリと空いてる席に無作法に座ると、ティオドールがジロリと睨む。
「そう睨まないでくれよ、ティオドール。俺の心身を労って欲しいんだけど」
「騎士にあるまじきふがいなですな、フリエス・ゾラ。また鍛えて差し上げてもよいのですぞ?」
「うへぇっ!?いやぁ、仕事忙しいからそれは難しいなぁ、残念だなぁ」
「では貴方の家に出張しますぞ?」
「えぇっ!いや、大丈夫!大丈夫!」
「あのさ、フリエスが疲れてるって何かあったの?」
「そこだよ、イオ君!」
「イオ・・・君」
「ここ2日ほど、ヴェルが惚気話で鬱陶しいんだ。誰彼構わずイオノ話ばかりするから、みんな耳にタコが出来てるよ」
「ぇ・・・・・」
「一昨日なんて、イオの食事のメニューを全部言ってから自ら食べさせてまるで小鳥のように愛らしいとか・・・気持ち悪くらいの笑顔でな」
「わー!わー!もう言わないでくれー!」
イオはあの日の夜の事まで言ってないか心配になったが、どうやら恋人同士になったくらいの自慢話で留まっているようだ。それはそれで問題大ありではあるが。
そしてフリエスは、今どんな気持ちなのか気になってはいた。過去のヴェルジークの恋人達は、愛されても彼の元を去って行ってしまったという話を聞いた時だ。
────まぁ、俺ならヴェルが変態だろうと廃人だろうと捨てないけどな
以前にフリエスが言っていたその言葉を思い出すと、フリエスはヴェルジークのことが好きなのだろうと感じていたからだ。
自分が過去の恋人達のように、フリエスのライバルとなっている事に少し心苦しかった。
「あの・・・オレはヴェルジークのことちゃんと好きだから。フリエスにも負けないから」
「・・・・は?」
「フリエスは昔からヴェルジークのこと見守ってて、好きなんだよな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「オレ、ヴェルジークのことが好きだ」
イオは素直に好きだと言えた事で、ヴェルジークに対する気持ちが嘘ではないとハッキリ気付く事ができた。そんな真っ直ぐな瞳でライバル宣言されたフリエスは、いつものおちゃらけた顔を引き締め険しいイケメン顔になると口を開いた。
「悪いけど、俺・・・・・・例え世界が明日滅ぶ事になってもヴェルのことこれっぽっちも好きにはならないから。いや、それ以前に女の子と俺は付き合うから。出来れば儚く華奢で守ってあげたくなる可愛い女の子がいい。そしてその子とたった1日の夫婦となって世界の終焉を迎えるんだ」
「・・・・・・・・・・・・え?」
まさかの返答に、イオはしばらく硬直しているのだった。
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