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23美幼女の危険なお散歩
ハルバースタム団長の愛娘ユーリエ・チェインの散歩の護衛という簡単な任務とはいえ、大貴族の大事な令嬢にもしもの事があったらただではすまない。ましてや目に入れても痛くないほど娘を溺愛していると評判のハルバースタム団長の子供だ。
イオはあまり乗り気ではないが、王都に行けば仕事姿のヴェルジークに会えるかもと少しだけワクワクした。そして無理を言ってエオルにも着いて来てもらった。
「ゴメンな、エオル。子供の相手とか、なんか心細いから」
「ぁ、ううん・・・平気。弟達の面倒とか昔は見てたし」
「そうなんだ?エオルはお兄ちゃんなんだな」
「・・・・うん」
「?」
「お、着いたぞ。チェイン侯爵家」
「いよいよ・・・あのハルバースタムさんの子供とか、どんな子だろ。やっぱり声は大きのかな」
ハルバースタム団長と言えば、あの大きな声が特徴なのでその遺伝子が娘に伝承されていたらどうしようとイオは構えた。チェイン侯爵家の執事に客室へ案内されると、アンティークな質の良いソファーに女の子が品良く座っていた。
ユーリエ・チェインは、緩く巻いた焦げ茶色の髪をツインテールにしていて瞳はエメラルドのような緑色をした5歳にしては貴族としての品格を漂わせていた。あと数年もすれば絶世の美少女になるに違いない。
「よかった、普通に可愛い子だ」
「聖騎士団、フリエス・ゾラ。ユーリエ・チェイン嬢の護衛としてお迎えに馳せ参じました」
「ジー・・・・」
「?」
美幼女ユーリエが、フリエスとイオとエオルをジッと見回している。そしてその可憐な唇をついに開いた。
「フリエスは中の上。黒髪の人は目は綺麗だけど平凡。白髪の人はもやしね」
開口一番に何を言うかと思えば、ユーリエは3人を値踏みしていた。
「!!!」
「さすがユーリエ嬢、見所がおありですね」
「も、もやし・・・」
「当然よ!わたしほど賢くて天使のように可憐な存在と同行しようというのよ?目に叶う人でなければならないのよ」
「私どもはお目に叶いましたか?」
「そうね、まぁまぁかしら。本当はヴェルジーク様がよかったのにお忙しいと断られてしまったの・・・未来の妻に対して罪なお方よね」
「それはいけませんね」
「そうでしょう。フリエスはなかなか見所あるわね」
「至極光栄でございます」
天使のようなユーリエの上から目線な高飛車さと失礼極まりない発言に絶句しながら、あのチャラいフリエスがまともに敬語使ってるとか誰だこのイケメンはとイオは心底驚きだった。
でも貴族だろうと、言っていい事と悪い事の分別はわからせないといけない。
「君は確かに貴族で偉い立場かもしれないけど、人を傷付ける人は上には立つ資格はないんだよ」
「なんの事かしら?」
「エオルを、もやしって言った。エオルは君達帝国貴族の大事な民だ。そして何より友達を傷付けるのは許せない」
「なんなの、貴方。わたしは本当の事を言ったのよ。庶民に指図される覚えはないわ。貴方は要らないから帰ってちょうだい」
「あのね、君!」
『・・・・こやつ我が魔王に対して何たる侮辱!叩き斬ってもよいか!?』
(ダメだよ、ケンさん)
ケンさんは敬愛する主である魔王とイオを侮辱され、怒り心頭のようだ。イオは小声でケンさんをなだめようとする。
するとユーリエが、突然立ち上がりキョロキョロと辺りを見回した。
「今の声、なんですの?」
「・・・まさかケンさんの声が聞こえるのか」
魔剣の声は、魔族と魔力が高い者にしか聞こえないようなのでユーリエは人間なので魔力が高い者と言う事になる。それに気付いたケンさんも、黙り込み迂闊に喋る事ができなかった。
「気のせいかしら?まぁいいわ、さっそく出かけるわよ」
「ユーリエ嬢、本日はどちらへ?」
「もちろんヴェルジーク様の所よ!」
「え、ヴェルジークのとこに・・・」
「ほら、未来の妻としては夫の仕事を理解して支えて差し上げるのが良妻賢母ってものじゃない?それに最近はなかなかこちらに顔を見せてくださらないし」
「・・・団長が睨みきかせてますからね」
「え、そうなんだ」
「将来有望な美少女になりそうなのに、あの性格残念だ」
フリエスがボソボソとその理由を言うに、どうやらハルバースタムが愛娘に悪い虫が付かないか見張っているようだ。そして箱入り娘として育てられたユーリエが、ワガママ高飛車令嬢へと進化したわけである。
「なにぼさっとしているの?早く護衛しなさいよ」
「かしこまりました」
「フリエス・・・」
「これも処世術だよ、イオ」
騎士も大変だなとイオは思いながらも、ヴェルジークに会ったらどうしようと困惑もしていた。ユーリエは未来の妻と言っていた。貴族ならお互い同意がなくても、親同士の意向でお見合いとかでも結婚か決まってしまうからだ。しかも相手はちゃんと女性だ。男のイオでは、届かない壁があった。
重い足を引きずるように、イオはエオルとユーリエの後ろを歩く。前はフリエスが先導していた。
まず向かったのは、キーダの仕立て屋の店だった。キーダ・コレッタは王都でもトップの実力を持つ優秀な人気服職人である。フリエスはうやうやしく店の扉を開けると、キーダがくねくねと歩いて来た。
「いらっしゃいませ〜ん!まぁまぁ、これはこれはユーリエ様。ようこそお越しくださいました」
キーダの独特な女性のような口調と、派手なピンクの七三分けヘアーに妖精のような綺麗な水色の瞳は相変わらずだった。
「キーダ、わたしに似合う服を見立ててちょうだい!これからヴェルジーク様の所に行くのよ。あの方は派手なものは好まないから、気品溢れてかつ優雅なものを頼むわ」
「かしこまりましたぁん。お茶を用意しますわぁ。あら?イオちゃんじゃないの〜♡」
「お久しぶりです、キーダさん。相変わらず綺麗な水色の瞳ですね」
「きゃ〜♡もうイオちゃんったら、食べちゃうわよ!」
「いや、それは遠慮します」
「キーダと知り合いなの?」
「前にヴェルジーク様がお連れになって、服を見立てて差し上げたのよぉ」
「あの時の服は大事に取っといてあります」
「嬉しいわぁ。今は何してるのぉ?」
「はい、ヴェルジークさんの屋敷で使用人をしています」
「まぁ!それはいいわねぇ♡あ、そうだわ、後で服を届けるから是非着てちょうだい」
「いいんですか?」
「就職祝いよ♡」
キーダは綺麗にウィンクしてみせた。
「ヴェルジーク様が、この平凡に服を・・・」
何やらギリギリと恐ろしい歯ぎしりの音が聞こえるが、イオは目を逸らした。直視したら面倒くさい事になる予感しかなかったからだ。
その後キーダが仕立てた服を、ユーリエは気に入ったようで満足しながら店を出た。
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