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24どうしてニンゲンは
その後順調に道を歩いていたら、トイレに行きたいというユーリエを近くの店へ案内した。さすがに女性のトイレまでは護衛するわけにはいかずに、3人は外で待つ。
しかしだいぶ時間が経っても戻らないユーリエを心配して、店の女性店員に様子を見に行ってもらうが中には誰も居ないという。3人は顔を合わせて、蒼白になる。護衛対象を見失った、処刑罰ものの大失態である。
「ヤバいー!俺の首が飛んだ!」
「ど、どうしよう」
「あの・・・とにかく手分けして探そうよ」
「何としてもあの高飛車じゃじゃ馬娘を確保だ!」
「フリエスが一番不敬罪発言してるんだけど」
「内心はそう思ってたんだね」
「ロリコンなのに?」
「おい、コラァ!俺はロリコンじゃない!」
ロリコン疑惑のフリエスはともかく、3人は手分けして周囲を探し始めた。まだ子供の足ではそう遠くは行けないはず。
イオはとにかく走って細い路地裏で、ユーリエを発見した。
「あ!お嬢様、待って!」
「平凡男!いやよ、貴方に先を越されるわけにはいかないわ」
「なんの話ですかー!」
「着いて来ないでよー!ヴェルジーク様はわたしのモノよー!」
「ええー!?」
恋のライバル認識されたイオに、対抗心剥き出しのユーリエの追いかけっこは長くは続かなかった。
なぜなら道を塞ぐガラの悪そうな男達に囲まれたからだ。
「へっへっへっ、お嬢ちゃん達どこ行くのかな」
「ッ!」
「貴方達、そこおどきなさい!わたしに道を開けるのよ」
「お嬢様、オレの後ろに」
「きゃっ!ちょっと気安く触らないでよ」
「なかなかの見た目だ。特に子供の方は高く売れそうだな」
「誘拐犯か」
イオは魔剣を抜くと、ユーリエを守るように誘拐犯達に立ち塞がる。
「ちょっと!前見えないわよ」
「いやいや、誘拐犯とは人聞き悪いねぇお兄さん。ちょーと稼いで来て貰うだけどよ、変態の貴族達の所でな」
「っ」
男達は10人程いて、イオ一人で相手出来るかわからない。ましてや後にはまだ幼い子供を守りながらだ。すると数人の男が一斉に飛びかかって来た。咄嗟にイオは剣を振ると男達は、少し離れる。
今度は武器を抜いた男達は、また襲い掛かる。ユーリエを抱き込んで身をギリギリで交わした。
「ちょっと、さっきから気安くわたしに・・・貴方、腕から血が出てる」
「かすりました。でも大丈夫」
「だ、大丈夫なわけないでしょ!誰か助けを・・・」
「大丈夫だよ、君を守るから。オレが死んでも君が生きてる可能性があれば、きっとヴェルジークが助けてくれるからね」
「貴方っ!」
『王よ、後ろだ!』
「っ!!!」
ケンさんが叫ぶと、後ろから近づいて来た男に剣で刺されそうになるイオ。だがさらにその男の後ろからもの凄い速さで男の腕に噛み付いた人影があった。
「エオル!」
エオルだった。必死に噛み付いているが、別の男に引き剥がされて壁に投げつけられてしまう。ぐったりしているエオルを、噛み付かれた男が足蹴にするとバンダナが外れ、人とは違う猫のような獣耳が付いていた。
「ぅッ!」
「こいつ獣人か?でも目が黒いな・・・ハーフか。こいつも高く売れそうだ。おい連れてけ」
「エオルー!」
「どうしよう・・・あのもやし連れてかれちゃう」
「・・・・くッ」
「ど、どうしたのよ?傷が痛いの?ねぇ、ねぇ・・」
イオは突然の胸の痛みに、地面に蹲ると呼吸が乱れ始めた。
(心臓がバグバグしてる、音が遠い、どうしていつも人間は・・・ニンゲンは・・・)
「どうしていつもニンゲンはオレのものを奪っていくんだ」
ゆらりと起き上がるイオはいつもと様子が違っていた。目が鋭く紫の瞳をいっそう鋭利に光らせている。魔剣の刃をトントンと肩に当てながら、ジロリと誘拐犯達を睨む。
「な、何だコイツ・・・ヤろうってのか?死んでも知らないぜ!オラー!」
男の1人がイオに向かって剣を振ると、突然消えた。消えたというより、壁にめり込んでいた。ピクピク身体が動いているので、まだ生きてはいるようだ。
その場にいた全員が何が起きたかわからなかったが、仲間が1人ヤられた事でみんな武器を構えて警戒する。
「な、何をしたお前!?」
「別に?ただの散歩中にお前らが勝手に道塞いでるから、箒で掃いた」
『おおお、我が魔王よ!我を箒扱いとはなんという粗末な扱い、キュンとしたぞ!』
「うるせーよ、剣は喋るな」
「誰の声なの・・・ま、魔王・・・魔王ってなに」
「・・・・」
ガラの悪くなったイオに、震えながらも気丈に振る舞おうとするユーリエだが足がガクガクと震えている。
イオはしゃがんで、ユーリエと目線を合わせると鋭利な瞳でジッと見る。
「おい、メスガキ」
「ヒッ!」
「責任取れない事はするな。ガキは大人しく家で、おままごとでもしてろ。エオルが死んだら、お前が生きてるのを後悔する目に合わせるぞ」
「ふ、ふえぇ・・・ッ」
「無駄に泣くな。泣くなら、コイツら倒してから嬉し涙でも流してろ」
「うぅッ・・ひっく・・・どうやって?」
「お前、魔法使えるか?」
「はい、火の魔法なら」
「ふーん、まぁそれでいいや。おい、お前ら」
「ヒィッ!?」
いきなり矛先を向けられた誘拐犯達はただならぬ気配に怯えた。
「お遊戯の時間だぜ」
剣先を向けてイオは、不敵な笑みを浮かべた。
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その後はもはやお遊戯からは程遠い、一方的なお仕置きが待っていた。向かって来た者は壁にめり込み、残った者はユーリエの火の魔法で作った火の輪の中をくぐらせた。男達はそのお仕置きに、いつの間にか全員気絶していた。
「こんなもんか」
「わたし達がやっつけたの?」
「おい」
「は、はいッ!」
「人に向けて魔法を使うのはこれが最後にしておけ。嫁に行けなくなる」
「・・・はい」
「あぁ、それと今の事は全部忘れろ。剣の事も、魔王の事も。約束出来るか?」
「はい!約束しますわ。あの・・・わたしが貴方の嫁に行くのは・・・いかがかしら?」
「・・・それは断る」
「えっ、どうして!」
「オレ、ロリコンじゃねぇもん」
「・・・・」
「さてと」
イオは倒れるエオルに近付いて、抱き起こす。息をしているのを確認すると安心したような顔をした。するとエオルが目を開ける。
「エオル、生きてるか」
「・・・・うん、イオは?ケガは・・・」
「いい、喋るな。大丈夫、オレは大丈夫だ」
「よかった・・・なんか、イオ、カッコイイ?」
「オレはいつもカッコイイんだよ」
「うん・・・」
そのまま意識を失ったが大丈夫そうなエオルを、そっと横に寝かしてやる。すると服の袖をユーリエが引っ張る。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
イオはユーリエの頭をくしゃくしゃに撫でると、少しだけ笑みを作る。
「オレには謝罪するな。わかってるなら起きたら、エオルとフリエスに謝っとけ。お前の気持ちをもっと民に向けろ、いつか人の上に立つならな」
「はい、わかりましたわ!イオ様!」
ユーリエは子供らしい笑顔を向ける。そしてイオは事切れたようにその場に倒れ込んだ。
その後はユーリエが近くの大人に兵士を呼んでもらい、ヴェルジークとフリエスが迎えに来て事なきを得るのだった。
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