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25眠れるイオ

 誘拐犯からユーリエ達を無事に保護したヴェルジークは、未だ目を覚まさないイオの手を取って付き添っていた。エオルはすでに目を覚まして、ユーリエにたくさん謝られておどおどしていた。  チェイン家の使用人が迎えに来るまで待って居なさいとソファーに座らせていたが、ユーリエが魔剣と会話しているので驚く。 「わたし諦めませんわよ!イオ様の妻になるのは、このわたしですからね!」 『ぬかせ、小娘が!我などとっくの昔に身も心も我が魔王と一心同体なのだ』 「ま、まだわからないわ!あと数年したらわたしの魅力に気付いた魔・・・イオ様が迎えて下さるかもしれないのよ!」 『ハハハハ!そのツルペタで我が主を満足させられると思うでない!』 「なっ、なんですって!?不敬罪です!漬物樽に沈めてやりますわ!」 『小娘め!おい、やめろ!我をどこに持って行こうとするのだ!』  剣を抱えて部屋を出ようとするユーリエを、フリエスが扉の前で制止する。 「おっと、どこ行くんですか?お嬢様」 「フリエス〜!この魔剣、わたしに不埒な発言をしたのです!厳重処罰を下してくださいませ!漬物樽に埋めるのですわ」 「ハハハ、それは困りましたね」 『ぶ、無礼者め!我を漬物樽に放ってよいのは魔王だけだ!』 「しかし、ユーリエ様が魔力をお持ちとは。魔剣と会話出来る能力は重宝します」 「わたしだって、やれば出来る子ですのよ」 「この前までヴェルの嫁になるとか言ってたのにな、この変わりよう。一体何があったんだろうな」  フフンと高飛車な所は直らないが、以前よりも子供らしさが出てきたユーリエである。そしてどうやら、イオに好意を持ったようだ。  そんなにやり取りを横目に、ヴェルジークは不安そうな顔をした。 「イオ、なぜ目が覚めない」 『魔王の魔力が外に出たせいかもしれぬ』 「魔力が外に出たって、剣が言ってますわ」 「魔力が?」  ユーリエは約束でイオが魔王というのは忘れる事になっているので、あえてその部分を避けて剣の言葉を伝えた。 「えっと、降臨の神殿で・・・寝かせて浄化させると言ってますわ。は、・・・ッ」 「どうされました?ユーリエ様」 「あの、は・・・裸で寝台に寝かせよ、と!」 「裸で・・・」 「なんたる破廉恥な発言をさせるのですか!わたし、お嫁に行けませんわ!あぁ、でも責任を取ってイオ様のお嫁さんに・・・」 「申し訳ありませんが、ユーリエ様。イオは誰にも渡すつもりはありせんので」 「え?・・・」  キラキラな笑顔でたった5歳児相手にさり気なく牽制する、大人気ない大人のヴェルジークである。5歳児とはいえ女の勘で二人がそういう仲だと察したユーリエ。2人は美形同士、キラキラ笑顔で牽制し合った。  エオルは心配そうに、イオの手を握ってやる。 「あの、寝るとイオは戻りますか?」 「そうらしいですわ」 「降臨の神殿は陛下の許可が必要だ。アーシア陛下にお目通り願おう」 『あの変態のところへだと!?ならぬ!イオが穢れるわ!』 「この魔剣、皇帝陛下におそれ多い発言をしているのですけれど」 「まぁ、いつもの事みたいですよ。では、俺が先に城へ出向いて来ます」 「頼む、フリエス」  フリエスが城へ向かい、ヴェルジークはイオの手を離さずにいた。ユーリエも気を利かせてエオルと部屋を出ていく。エオルにいいの?と聞かれたが、いい女は空気を読むものなのよ!とおませに答えられていた。 「イオ・・・早く、笑顔を見せてくれ」  ヴェルジークは、そっとイオにキスを落とした。 ✼•┈┈┈┈•✼•┈┈┈┈•✼•┈┈┈┈•✼  皇帝アーシアへの謁見は3日後に行われた。その間イオは目を覚ますこともなく眠り続けている。今は城の来賓室で愛娘ユーリエが無事に戻ったハルバースタムは、眠るイオの手を握りしめ大声で感謝を述べるがユーリエに未来の夫に何をするのです!と言う言葉に絶句し放心状態になっている。  エオルは貴族ではないのでメリュジーナの屋敷へ先に帰らせておいた。  そしてユーリエに、強い者大好きなアーシアと引き合わせたのがまずかった。アーシアはイオの武勇伝?を、目を輝かせながら聞き入っている。 「────そして暴漢から襲われそうになったわたしを庇いお怪我をなされたというのに、魔剣を箒のように振り回し次々とやっつけていったのです!」 「おお!さすが予の寵姫イオだ」 「イオは陛下の寵姫ではありまさん」  ヴェルジークは聞き捨てならないと、ちゃっかり会話に参加している。 「この貴族たる可憐なわたしを『メスガキ』と呼び、おままごとしていろと罵る冷徹なイオ様・・・ですがわたしと目線を合わせてくれたお心遣いの優しさ!鬼畜にも暴漢をわたしの火の魔法でお戯れなさりエオルさんを助け起こしてこう言われたのです・・・」 「ドキドキな展開であるな」 「ユーリエ様、イオはなんと?」 「オレはいつもカッコイイんだよ」  イオの声真似をした後にユーリエは甲高い奇声を上げてくねり出し、アーシアはソファーに倒れ込んだ。ヴェルジークは、口を抑えながら身体を震わせている。悶絶しているようだ。 「イオ、なんと勇ましいんだ・・・さすが私の恋人」 「きゃあああああ!自らをカッコイイと断言なさるイオ様、ステキすぎますわ〜!」 「予はイオを正室に迎えるぞ!今すぐだ!神官を呼べ〜!」 「・・・・あんたらちょっと落ち着こうや」 『変態共め!我のスペシャルカッコイイ魔王は渡さぬぞ!』  3人とひと振りの魔剣がイオに対して変態思想を抱くなか、フリエスは冷ややかに見つめた。この国は大丈夫だろうかと。ちなみにハルバースタムは、まだ放心状態だ。 「それにしても、ハルバースタムの娘は火の魔法を使えるのか。なかなかの戦力そうだな。賢いし、物分りもよい。成人した暁には、城で召し抱えよう。予の補佐官にするか」 「ハッ!お待ち下され、陛下!まだ娘は5歳ゆえに!」 「だから成人したらと言っておろうが」 「まぁ、身に余る栄誉ですわ!権力を駆使してイオ様をいつでも城に呼べますのね」 「・・・・フリエス、俺は例えこの手を汚してこの国に黒歴史を築こうともイオを守る」 「おーい!ヴェル、何するつもりだよー!剣はしまえってば」  イオを巡る水面下の謎の抗争が始まろうとしていた。  話が先に進まないので、フリエスは本題を持ちかける。  そして事の顛末を報告したヴェルジークは、アーシアの許可の元降臨の神殿にフリエスを含めた騎士団を派遣するのだった。

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