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29式の予約にはまだ早いです

 イオがヴェルジークと両想いの間柄になり、翌日から甘い雰囲気満載の日々かと思われたがそうはいかなかった。西大陸への準備に忙しい騎士のヴェルジークと、屋敷の使用人として忙しいイオはなかなか結ばれた夜以来触れ合う機会がないからだ。  ティオドールの目を盗んでこっそり撫でたりしていたヴェルジークだが、メイドは見ていたなロゼットや存在感薄いエオルに気付かなかったりと失態をしたりもした。  それでも一緒に居られる日々を、イオは嬉しく感じていた。ヴェルジークもこの先二人の事を真剣に考えてくれているようで二人の仲は少しづつ深まってもいたのだ。  そんなある日、ヴェルジークの母親が屋敷へ来訪したのだ。  ヴェルジークは恭しく母親の手を取り、広間へスマートにエスコートする。美男美女な親子で眩しい。 「初めまして、わたくしはネーナ・メリュジーナ。今は亡き前当主ヘイリー・メリュジーナの妻で、ヴェルジークの母です」 「は、初めまして・・・イオです」  ヴェルジークの母親、ネーナは水色の髪に銀の瞳を持つ神秘的な雰囲気の女性だった。雰囲気はなんとなくヴェルジークに似ているが、似てはいないので容姿は父親寄りなのだろうか。  亡き、という言葉からヴェルジークの父親ヘイリーは残念ながら他界しているようだ。 「えっと、お会い出来て光栄です。ネーナ様」 「わたくしもよ。ここ最近はヴェルジークからの手紙に、貴方の事ばかり書いてあるから会うのを楽しみにしていたの。予想以上に可愛いらしい方で、うちのヴェルジークが抱き潰してしまわないか心配だわ。うふふ」 「・・・一体何を書いたんだ、ヴェルジーク」 「そうでしょう、母上。イオは可愛いだけでなく、とても勇敢で心優しい人なのです。私はイオを実の家族のように想っています」 「ヴェ、ヴェルジーク!」 「まぁまぁ!そんなに気に入るなんて、素晴らしい事だわ。ヘイリーもわたくしと出会った日にすぐプロポーズして式まで用意していたのよ。愛情深い人だった」 「ずいぶんと思い切った先代当主様だったんですね・・・」  イオはヘイリーの性格を色濃く受け継いるであろうヴェルジークを、ちょっと不安げに見た。ヴェルジークは男前な笑顔でイオを見つめ返す。 「心配するな、イオ。式場やその他の事はちゃんと二人で決めよう」 「・・・・・確実にヴェルジークはお父さん似だよね」 「そうか?父はこの国の偉大な騎士団長だった。国や民を愛し、情に厚い方だった。しかし・・・先の魔族との戦いで名誉ある死を遂げられてしまったのだ。私は最期まで戦い守り抜いた父を尊敬している」 「ヴェルジーク・・・」  少しだけ寂しそうなヴェルジークを、イオはなんて声をかけようか迷った。  するとネーナが気を遣い話題を変えてくれる。 「そうそう!イオちゃんにお土産を持って来たのよ。少し待っていてね」 「え、奥様、お構いなく!」 「奥様、はしたないですよ」  ネーナはウキウキとお土産を取りに行き、ティオドールもやれやれといった感じで着いていく。  残されたイオは、ヴェルジークをちらりと見た。 「活発なお母さんだね」 「元気が良くてたまにハラハラするが、そこが母上の魅力なのだろう」 「うん、それはそれで可愛いな」 「イオの方が可愛いぞ」 「・・・ありがとう」  真顔で可愛いと言われ照れながらも、ヴェルジークの家族に受け入れてもらえてるとイオは内心安堵していた。 ───『我は主に嘘を付いた、我が呼んだのだ。我が王を呼び戻そうとして失敗したのだ。魂は無事でも身体は耐えられず、我は精霊の力を借りて仮初めの器を創った』  以前眠りについた精神世界の中でケンさんから言われた言葉が脳裏によぎる。自分は不確かな存在でしかも前世は魔王という不安は簡単には拭えないからだった。  イオの陰る表情に気付いたヴェルジークは、そっと手を握りしめる。イオは心配させないように照れながら笑いかけた。 「ところでイオ、君が眠りから覚めた時・・・その、君の部屋で無理な事をしてしまった次の日に・・」 「っ、うん・・・なに?」 「『ヴェル』と呼んでくれたよね」 「え・・・・・そ、そうだっけ」 「出来れば二人きりの時でいいんだが、ヴェルと呼んでくれないか?君に特別に想われてる気がして心地良いんだ」 「フリエスも愛称っぽく呼んでるけど?」 「アレは除外だ。そもそも私は呼んでいいと許可していない」 「・・・・フリエスがちょっと可愛そうだ」 「どうだろうか?イオ、たまにでいいんだ」 「あ、・・・ぅ、うん」  イオは周りをキョロキョロと見渡しながら、誰も居ない事を確認した。そして手を握りしめたままのヴェルジークを、イオの艶のある紫の瞳が彼の深い青い瞳見つめて言葉を紡いだ。 「・・・ヴェ、・・・ヴェル」 「なんだ、イオ?」 「えっ!ヴェルが言ってくれって・・・」 「イオ、私がどうしたんだい」 「ヴェル・・が、ヴェルが、・・・す──」   ────ズシーン  次の言葉を言おうとした矢先、屋敷内に響く重い音が二人の甘い空間を遮った。 「な、なにー!?」 「玄関の方か?イオはここに居なさい」 「あ、待って!オレも行く!」  二人は急いで立ち上がると、音がした方の玄関へと走って行くとネーナとティオドールが居た。その横には品のいいアンティーク調の大きなタンスが2つ置かれている。 「母上、このタンスは・・・」 「お土産よ!イオ君に似合うと思って色々と持ってきたの。あと1つあるから少し待っていらして」 「・・・お土産」  イオへのお土産はどうやら衣装のようだったが、まだあるらしくネーナは一度外へ出た。そしてその後に驚愕した。 「よいしょっと」 「!!!!!!!!」 ────ズシーン  なんとネーナは、自身の身長よりも高い衣装タンスを自ら両手で持ち上げて持って来たのだ。床に置くと、その裏側からひょっこりと可愛いらしく顔を覗かせた。 「お待たせ〜」 「奥様、人前で重労働などはしたないですぞ」 「あら、いいじゃない。ここには家族しかいないのだから」 「・・・ヴェルジークのお母さんって力持ちなんだね・・・」 「ふぅ・・・母上、衣装タンスごとお持ちになったのですか?イオが困っていますよ。んっ」 「えーーーーーーーーー!?」  そう母親を諭すと、今度はヴェルジークが衣装タンスを軽々と持ち上げ端に退かせた。イオは親子揃って怪力を発揮する様を目の当たりにして、ビックリする。  以前、ティオドールとフリエスと剣を交えた際に遠い場所から3人の元まで移動して来た事があるヴェルジーク。今日の事で彼の力が隠されているのではと、イオは思った。 「さささ、イオちゃん♡お着替えしましょうね」 「わぁっ!?奥様〜!」 「母上!イオは俺が着替えさせます!イオの裸は私のモノです!」  イオはこの後、ネーナとヴェルジークに揉みくちゃにされながら様々な服を着せられるのであった。

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