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40転生したら騎士の魔剣で溺愛されました

 イオが普通の人間として暮らし始めて2ヶ月後の事だった。ヴェルジークとの仲や、使用人としての仕事も順調な中ヴェルジークの母親であるネーナが仕立て屋のキーダと屋敷に訪れた。  そして従者として連れて来た者達が、大問題だった。ヴェルジークとイオが並んで座り、その隣の1人掛けソファーにはキーダが。反対側にはネーナ、そして両脇にはなんとケンさんとユーリエが座る。しかもケンさんはきちんと服を着ていた。 「お久しぶりね、イオちゃん。それにヴェルジーク、元気だった?」 「お久しぶりです、奥様」 「母上もご健在そうで何よりです」 「もうね!ハルバースタム様から2人の事を聞いて心配だったのよ〜!やっと屋敷に来れて安心したわ。色々大変だったのね」 「はい・・・しかし、母上の父君であるセムルエル殿が・・・」 「いいのよ、お父様と仲違いしたままだったけど今こうしてケン君の中で生きてると思えばこれから親孝行も間に合うでしょ」 「奥様・・・・。あの、ところで、なんでケンさんは服着てるんですか?それに、ユーリエ様まで」 「そんな事決まっておる!愛しい我が主の為に来たのだ」 「そんな事決まってますわ!愛しいイオ様の為に来たのですわ!」  2人の息はピッタリなのに、なぜかネーナ越しに牽制し合っている。 「ケン君はお父様の肉体を得た事で実体化出来るようになったみたいね。そのおかげでわたくしの護衛として着いて来てもらったのよ。ユーリエちゃんは、イオちゃんに服をプレゼントするみたいよ」 「なるほど」 「そうよ〜、この最高の仕立て屋であるあたしの最高傑作をお持ちしたのよ♡」 「キーダさん、ありがとうございます。キーダさんの服ならきっと素敵な物でしょうね」 「イオちゃん♡♡♡」 「イオ様!プレゼントするのはわたしですのよ!」 「あー、えーと、うん・・・ユーリエ様もありがとうございます。オレのこと考えてくれて嬉しいです」 「イオ様♡♡♡♡♡」 「主よ!我も褒めてくれ!立派に護衛を努めておるのだ!」 「・・・・・・うん、偉いよ、ケンさん」 「主ー♡♡♡♡♡♡」  たくさん飛んでくる見えるはずのないハートマークを身体のあちこちに感じながら、イオは持って来たプレゼントの箱を見つめる。 「ヴェル、開けてもいい?」 「ああ、君の物だから開けるといい」 「うん。どんな服か楽しみだね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  イオは少しワクワクしながらリボンを解き箱を開けて、服を持ち上げると丁寧に畳み直し仕舞うと箱を閉めた。  そしてリボンを結び直すと、ヴェルジークにそっと手を握られ止められる。 「なぜ仕舞うんだい?とても良い物を貰ったじゃないか、後で着よう」 「あら、今着てもいいのよ?」 「そうですわ!是非!今!」 「そうよ、そうよ〜!せっかく可愛く仕上げたのよ〜ん♡そのメイド服♡」 「・・・・・」  イオは整った可愛い顔を死んだ目で台無しにしながらも、箱を生暖かく見つめた。そう、プレゼントはメイド服だった。オーソドックスな白黒のミニスカメイド服と、その下にも如何わしい紫色の際どいメイド服が入っていた気もするが。  ちなみにさっきから黙っているケンさんは鼻血を出しながらソファーに倒れていた。「我は絶対に主のスカートから覗く太腿に挟まれよう」とかブツブツ言いながら。 「あの・・・お気持ちは嬉しいのですが、オレは男だしメイド服は・・・ちょっと」 「はううっ!?せっかく・・・せっかく・・・一生懸命頑張りましのに・・・」 「あ、ユーリエ様・・・」  ユーリエがシクシクと涙を零すとさすがに幼女を泣かせるのは可哀想かと思い直すと、突然玄関から怒号が聞こえた。 「わしの娘を泣かすとは何事だー!一刀両断にしてくれる、そこに直れ!イオ!」  明らかに騎士団長ハルバースタムの声に、イオ達は玄関へと赴く。すでに有能執事のティオドールが出迎えの準備をしていた。 「旦那様、チェイン卿と国王陛下がお目見えで御座います」 「団長はわかるが、国王陛下が?どちらに・・・」 「我が寵妃イオよ、息災か?」 「うわっ!?」 「ッ!」 「ヴェルジークよ、予を斬るつもりか?」 「申し訳ございません、見事に気配がなかったもので」  イオ達の正面に立つバッチリガッシリ見えるハルバースタム騎士団長はともかく、後ろからいきなりイオを抱き締めて来たのはまさかのアーシア国王陛下だった。  さすがのヴェルジークも気配を察知できないほど、アーシア陛下は神出鬼没だ。普通の人間のはずではあるが。玄関で立ち話をするわけにもいかず客間に通すと、アーシア陛下は、イオと共にどかりとソファーに腰掛ける。ネーナ以外は、王の御前のため皆立っている。 「さて、予も忙しい身なのでな手短に言うぞ」 「玉座空けて来たのに大丈夫なんですか?それに陛下の命を狙う刺客とかいるかも」 「イオは優しいな、さすが予の后だ」 「まだなってませんし、なりもしません」 「イオのたまに毒舌な所も可愛いな」 「・・・・」 「さて、此度はこっそりイオに褒美をやろうと思ってな」 「褒美ですか?」 「うむ、煩い貴族どもの前ではさすがに公には出来ぬのでな。許せ」 「いえ、そんな・・・」 「其方の功績は聖剣と等しい働きに値する、可能な限りの望みを叶えよう」  珍しくアーシア陛下は真剣に話してくるので、イオは考えた。ヴェルジークと目を合わせると、意を決し口を開く。 「あの、では剣を貰えますか」 「剣か?どのような剣がよいのだ?」 「普通の剣ではダメです。魔力の篭った剣を下さい」 「・・・・・魔剣か」 「はい。魔剣がない今、オレは騎士を目指します。名無しの魔王が・・・守れなかったモノを今度こそ守っていきたいんです。普通の身体のオレでは、多分普通の剣では叶わない」 「よかろう」 「え・・・」 「其方の望みを叶えよう。ただし魔剣はおそらく無理だ。魔剣に変わる精霊が鍛えた剣を授けよう」 「精霊の剣・・・」  アーシア陛下はイオの望みを快く承諾した。イオが騎士を目指そうとしていたのは、その場に居た皆初耳のようでヴェルジークも不安な顔を向けている。  そして魔剣ではなく、精霊が鍛えた剣を授けるというのだ。ネーナが補足して話してくれる。 「神殿の巫女達によって剣に精霊の加護を与えるのよ。魔剣とは少し違うけど、魔力が篭った剣には違いないわ。心配しないで、わたくしも精一杯助力しますから。カーリャ様にもお願いしてもらうわ」 「ネーナ様・・・ありがとうございます」 「主よ、本来ならば我が主の剣としてお守りする立場であるのに不甲斐ない」 「ううん、ケンさんは立派にこの国を守る剣になってるよ。ちょっと腰の辺りが寂しいけどね」 「あ、主〜〜〜♡♡♡♡♡」 「ちょっとケンさま、イオ様のお手を握っていいのは未来の妻であるわたくしだけですわよ!離れてくださいませ!」 「む、イオはすでに予の妻なのだからそれは許可出来ぬぞ。ユーリエ嬢」 「まぁ!イオちゃん、モテモテね♡わたくし、この恋の行く末を日記にしたためて著書を作らないと」  イオを巡る3人の愛の争いが繰り広げられる中、さり気なくネーナも参加しようとしていた。ティオドールとロゼットはちょっと笑みを耐えながら眺め、エオルは本気で心配している。  そしてヴェルジークはイオに近付くと、指先でそっと頬に触れた。イオはその指先を愛おしむようにそっと握る。そして小さな声で告げた。 「オレはこれからもヴェルの従者で剣で、恋人だよ」 「私も、これからも君を守る主で恋人で有り続けよう」  二人はそれ以上言葉を交わさずとも、通じ合っているようにお互い笑みで応えた。 イオはこの先この世界で生きていくだろう。  今は心許せる愛する人や信頼する友と過ごせる事を想い、この時間を笑って見守るのだった。 ⊰᯽⊱┈──╌❊╌──┈⊰᯽⊱ この度は【転生したら溺愛騎士の魔剣】を閲読いただきありがとうございました! 投稿間隔が長くなってしまったり誤字脱字等すみませんでした。おかげさまで無事に完結する事が出来ました、楽しんで頂ければ幸いです。 ヴェルイオちゃんはこれからも、皆とこの世界で穏やかに愛し合っていくのではないでしょうか。 物語の舞台となる異世界ィアーリウェアは関連作もあり、時代も違っているので気になる方は覗いてみて下さい。この作品では前回【Lv1だけど魔王に挑んでいいですか?】のキャラがなんとなく表記されてますが、単作でも読めます。 ではまたお会い出来ますように。

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