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第八章・7

「兄さん、今度の土曜日に映画に行こうよ」  新しく封切りされる話題作は、惠が以前から楽しみにしていた一本だ。  誘われることは承知していた瑛一だったが、ここはあえて断った。 「悪いが、先約がある」 「え~、何? 大学で、勉強?」  違う、と思いきって打ち明けた。 「ペガサス航空のお嬢さんと、デートする」  え、と惠は黙ってしまった。  しばらく目を泳がせていたが、苦し気に吐き出した。 「兄さん、僕のこと嫌いになったの?」 「違う。聞いてくれ、惠」 「ひどい。僕のこと、恋人じゃなかったの? 大好きじゃなかったの?」 「惠」  瑛一は、惠を抱きしめた。  惠はしばらくもがいていたが、やがてだらんと静かになった。 「大人の都合も解ってくれ。俺たちは、兄弟だ。逆立ちしたって、一緒にはなれないんだ」 「……」 「俺は、好きなだけ勉強をさせてくれる父さんに、今は感謝してる」 「……」 「一度くらいは、父さんの言うことをきいて義理を果たしたいんだ」

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