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第八章・6
晩餐会の数日後、瑛一は父に呼ばれて書斎にいた。
父のデスクには、三枚の写真がある。
どれも、先だって会った令嬢たちだ。
「履歴、家柄、そして会った際の印象。これらから、三人のお嬢さんを絞ってみた。どうだ?」
「鎌田製薬のお嬢さんがいませんが?」
やはりそこにこだわるか、と父は鎌田の娘の写真を追加した。
はぁ、と瑛一は溜息をついた。
「お父様。私はまだ学生ですよ? 結婚は早すぎませんか?」
「婚約、という形にしておけばいい」
それならば、と瑛一は父に条件を出した。
「一人数回ずつ、デートさせてください。血統書付きでも、躾のなってないネコはいますからね」
「ネコに例えるな。失礼だろう」
「ネコに、失礼ですね」
話はそこまでで、瑛一は写真の裏に書いてある名前やアドレスをスマホに登録した。
(俺が他の女とデートしたら、惠は怒るだろうな)
隠しておくより、一度怒られておく方を、瑛一は選んだ。
惠に不誠実なことは、したくない。
瑛一なりの、気遣いだった。
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