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第八章・5

「外はやっぱり冷えるね」 「そうだな。温めてやる」  瑛一は、惠を抱きしめた。  温かい。  ひな鳥のようなぬくもりが、惠にはあった。 「兄さん?」  おずおずと手を瑛一にまわしながら、惠は困惑していた。 「……今夜の晩餐会は、いわば俺の集団見合いなんだ」 「お、お見合い!?」 「各界の名士とその娘が、次々と紹介されたよ。将来の、嫁さん候補だ」 「そんな」  大好きな兄さん。  僕の兄さん。  その兄さんは、いつまでも僕の傍にいてくれると思っていたのに! 「泣くな」 「泣いてなんか、ないよ」 「惠」 「何?」 「愛してる」 「僕もだよ、兄さん」  そっと唇を合わせ、熱を分かち合った。  この時だけは、未来も将来も考えずに、二人だけの愛に浸った。

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