135 / 163
第八章・5
「外はやっぱり冷えるね」
「そうだな。温めてやる」
瑛一は、惠を抱きしめた。
温かい。
ひな鳥のようなぬくもりが、惠にはあった。
「兄さん?」
おずおずと手を瑛一にまわしながら、惠は困惑していた。
「……今夜の晩餐会は、いわば俺の集団見合いなんだ」
「お、お見合い!?」
「各界の名士とその娘が、次々と紹介されたよ。将来の、嫁さん候補だ」
「そんな」
大好きな兄さん。
僕の兄さん。
その兄さんは、いつまでも僕の傍にいてくれると思っていたのに!
「泣くな」
「泣いてなんか、ないよ」
「惠」
「何?」
「愛してる」
「僕もだよ、兄さん」
そっと唇を合わせ、熱を分かち合った。
この時だけは、未来も将来も考えずに、二人だけの愛に浸った。
ともだちにシェアしよう!