134 / 163
第八章・4
今、一番愛しているのは、惠だ。
それが、正直な気持ちだ。
だが彼は、血のつながった弟。
結婚が許されるはずもない。
(だったら、せめて惠に似た女性と……)
「兄さん!」
「おぅ、驚いた」
「ちゃんと食べてる? あっちに、お寿司があったよ!」
職人さんが注文を聞いて、その場で握ってくれるという寿司の話を、惠は無邪気に報告してくる。
「やっぱりお前は可愛いな」
「な、何? 急に」
いつかは離れなくてはならない運命の、愛する弟。
瑛一は、人目もはばからず彼を抱きしめたくなった。
離れたくない。
放したくない。
「惠、バルコニーへ行こうか」
「お寿司はいいの?」
「すぐ、済む」
瑛一は惠を伴って、人気のないバルコニーへ移った。
ともだちにシェアしよう!