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第八章・3
客人への挨拶を一通り終え、瑛一は父と共にソファに掛けた。
(腹減った……)
早く料理に手を付けたい瑛一だったが、そこへ父が話しかけて来た。
「どうだ、瑛一。気になるお嬢さんはいたか?」
「そんなことだろうとは思いましたよ」
客のほとんどが、妻ではなく娘を伴っている。
瑛一に会わせて、マッチングを図っていることは見え見えだ。
「強いて挙げるなら、鎌田製薬のお嬢様ですかね」
「鎌田さん、か?」
令嬢らしく身なりに気を付け、メイクもばっちりキメてはいるが、彼女は他の女性たちに比べて、ややぽっちゃりとした体型だった。
意外そうな顔つきの父に、瑛一は面倒くさそうに説明した。
「彼女だけが、俺……、私の空腹を気遣って料理を勧めてくれましたから」
「気配り、か」
もういいでしょう、と瑛一はソファから立ち上がった。
「いい加減、お腹がすきました。何かつまんできます」
「ああ。行きなさい」
瑛一は、鎌田のお嬢様が持って来てくれたオードブルに手を付けながら、考えた。
(目が。まなざしが、惠と似てたんだよな。あのお嬢さんは)
くるりとした円い目は、同じように料理を運んでくれた惠に似た表情をしていた。
心から瑛一を気遣ってくれる、心配してくれるあのまなざし。
(人生設計、か)
ゆくゆくは、名家の令嬢と結婚させられるんだろうな。
そこまで考え、瑛一は惠を思った。
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