133 / 163

第八章・3

 客人への挨拶を一通り終え、瑛一は父と共にソファに掛けた。 (腹減った……)  早く料理に手を付けたい瑛一だったが、そこへ父が話しかけて来た。 「どうだ、瑛一。気になるお嬢さんはいたか?」 「そんなことだろうとは思いましたよ」  客のほとんどが、妻ではなく娘を伴っている。  瑛一に会わせて、マッチングを図っていることは見え見えだ。 「強いて挙げるなら、鎌田製薬のお嬢様ですかね」 「鎌田さん、か?」  令嬢らしく身なりに気を付け、メイクもばっちりキメてはいるが、彼女は他の女性たちに比べて、ややぽっちゃりとした体型だった。  意外そうな顔つきの父に、瑛一は面倒くさそうに説明した。 「彼女だけが、俺……、私の空腹を気遣って料理を勧めてくれましたから」 「気配り、か」  もういいでしょう、と瑛一はソファから立ち上がった。 「いい加減、お腹がすきました。何かつまんできます」 「ああ。行きなさい」  瑛一は、鎌田のお嬢様が持って来てくれたオードブルに手を付けながら、考えた。 (目が。まなざしが、惠と似てたんだよな。あのお嬢さんは)  くるりとした円い目は、同じように料理を運んでくれた惠に似た表情をしていた。  心から瑛一を気遣ってくれる、心配してくれるあのまなざし。 (人生設計、か)  ゆくゆくは、名家の令嬢と結婚させられるんだろうな。  そこまで考え、瑛一は惠を思った。

ともだちにシェアしよう!