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第八章・16

「参ったな……」  頭をかく瑛一の頬を、惠が両手で挟んだ。 「瑛一さん、キスしよう」 「惠?」  思えば、キスが全ての始まりだった。  瑛一さんが、まだ『兄さん』だった頃。  あれはまだ、寒い冬だったっけ。  季節はめぐり、もう温かな春だ。 「お仕置きのキスじゃなくって、誓いのキスを」 「そうだな」  もう惠は、あの時の惠じゃない。  いたずらっ子で泣き虫の、『弟』ではないんだ。 「では、茉莉さん。立会人になっていただけますか?」 「喜んで!」 「何だか、恥ずかしいね」  二人でそろそろと顔を近づけ、唇を合わせた。  まるで、春のようなぬくもり。  確かな愛が、そこにはあった。 「おめでとうございます! 瑛一さん、惠さん!」  茉莉が拍手で祝ってくれる。 「惠、お前と兄弟で生まれてきて、良かったよ」 「僕もだよ、瑛一さん」  春の日差しの中、二人は幸せを噛みしめた。  これから、もっともっと幸せになろう。  二人でなら、叶う。  叶えてみせる。  誓いを胸に、瑛一と惠は未来に向かって足を踏み出した。

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