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湯呑みには口を付けず、俺の顔をまじまじと見ていた母にそう問われた。
「……どうしてそう思うの」
「お母さんを見くびらないで。 しかも私は高校教師。 あなたくらいの年代の子を毎日見てんのよ」
「…………」
そうか、……そうだよね。
普段から俺は騒ぐタイプではないけれど、同じ屋根の下、こんなに分かりやすく塞ぎ込んでいたら気付かれないはずがない。
やつれきって別人となっていた二年前の母も、入院に至る前は今の俺みたいだった。
……あの頃の事は思い出したくもないが、状況や心情は違えど症状がよく似ている。
「その様子だと、友達と大喧嘩したか失恋したかのどっちかよね。 後者かしら?」
「……どっちでもないよ」
「ふーん。 怜は頭が堅いからねー。 お母さんは心配よ」
「やっぱり俺、頭堅い?」
「えぇ、とっても。 それは昔からだから、もう変えようがない性分なのよね。 何事も一番でいようとしないところも心配」
「…………」
「〝僕は要らないから君にあげるよ、好きにしなよ〟が口癖だったなー」
「それいつの話? 子どもの時でしょ?」
「そうよ。 でも性分は変わらないから、今もなんじゃないの?」
「…………」
──グサッ。 思い当たる節があり過ぎる。
頭が堅い、執着心が無い、そういう性分……言い当てられて納得が出来るのは、俺にもその自覚があるから。
何が何でも手に入れたいと思ったものが、これまで生きてきて一つとして無かった。
初めて、大切にしたい、そばに居てあげたいと思った由宇の事さえ、勘違いだったと分かった瞬間に身を引いた。
振り向かせてみせると意気込む事もなく、友達でいられるならいいやと簡単に諦めた。
真琴の事だってそう。
白黒ハッキリ付けずに、彼にとってはあまりにも重要な三年もの期間を、俺の都合でただ振り回しただけに過ぎなかった。
毎日の〝大好き〟を聞き慣れてしまい、それが俺ではない誰かに向けられる可能性を少しも考えた事がなかった。
こうなってみて、ようやく分かる。
おそらく俺は……真琴に気持ちを返す事が怖かったのだ。
「母さんは……なんでそんなに強くなれたの」
「強くないわよ! 一年も閉鎖病棟に居たの忘れた?」
「いや、それは忘れられないけど。 今そんなの感じさせないくらいハツラツとしてるから。 忘れそうになる」
「……私は忘れようと努力してんのよ。 それが実を結んでるのなら万々歳。 怜を立派な検事に育て上げなきゃなんないからね。 腑抜けてらんないし」
「……そっか」
俺から見れば、母は充分強い。
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