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第1話
1994年 世紀末・東京─歌舞伎町
これは若者がまだ我武者羅だった時代の伝説の記録である。
お馬鹿な獣医・青梅院恋一郎(25歳/O型)クンは親のクレカでピンクの薔薇の花束を購入した。
花束を携えた恋一郎はここ一番、「ヨシ!」と気合を入れる。
マザコン丸出しの銀縁眼鏡をしているが、これでもビシッとしているつもりなのだ。
恋一郎ときたら、これから大切なイベントがあるのだ。
まずは青梅院恋一郎(25歳/O型)クンのプロフィールを紹介しよう。
青梅院恋一郎:せいばいいん れんいちろう
職業:獣医
年齢:25歳
血液型:O型
新潮:183㎝
趣味:食べ歩き
特技:ハンサム
将来やっていたい事:お洒落な結婚
そんな彼が満を持しての人生初デートである。
恋一郎もいよいよ男になるのだ。
スーツだって靴だって新しいものだし、髪もギバチャンみたいに美容室でセットしてもらった。
少しでも魅力を上げたくてコロンも振った。24時間戦えるようにリゲインも飲んだのだ。
姿だけなら電通の社員に見えるだろう。
まあ、全て親の金を使っているのだが。
先だって、恋一郎は伝言ダイヤルで婚活を始めていた。
ダイヤルQ2は高額請求がニュースで取りだたされていたので怖くて出来ない。
さりとて、雑誌の読者投稿ページにある文通募集から始めるだなんて、もっと敷居の高い。
そもそも恋一郎はお馬鹿なのである。字もヘタッピだし漢字も得意ではない。
ゴホン。
此処だけの取って出しの話だ。
恋一郎は一応は『青梅院コンツェルン』の通称で知られる金沢の財閥一族の長男坊なのである。
お馬鹿なので経営から離れて好きな事を仕事にしているが、世継ぎだけは作らないとならない。
恋一郎の母親は跡目争いに躍起なのだ。
だのに当事者の恋一郎と来たらお見合いを幾度となくすっぽかす(忘れる)おドジである。
それでお腹様は自分で探すように再三言われていた。
実は、今年中に結婚相手を見つけなければ親子の縁を切るとまで言われてしまっている。
そうなると親のクレカを使えない。
恋一郎にとっては大問題なのである!
諸君、話を戻そう。
伝言ダイヤルによる運命のパートナーとマッチング出来る仕組みについての話だ。
電話ボックス番号と組み合わせて4桁の暗証番号を設定すると数十秒のボイスメッセージが数件吹き込める。
吹き込んだメッセージは8時間すると消えてしまう。
しかしながら、昨今の若人はこの伝言ボックスを利用して運命の赤い糸で結ばれるらしい。
最先端の出会いなのだ。
恋一郎のマンションにほど近い第三倉庫なぞのクラブに出入りしているギャルたちが、伝言ボックスについてきゃいのきゃいの会話に花を咲かせているのを恋一郎はマクドナルドで聞いたのだ。
─ほんまでっか!
恋一郎はマクドナルドの中にあった公衆電話から早速伝言ダイヤルを利用する事にした。
便利な時代になったものだ。
恋一郎は適当に入れた暗証番号の後にメッセージを吹き込んだ。
『えっと…初めまして。新宿・歌舞伎町で動物病院を開業している二十五歳・男です。可愛いお嫁さんを探しています』
伝言ボックスに入れて数時間後。トントン拍子で相手と会う事になった。
恋一郎もチャンスを掴んだのである。
相手も歌舞伎町に住んでおり、動物病院からは目と鼻の先であった。
少しだけ通話したのだが、落ち着いた品の良い印象の娘だった。
デートの待ち合わせは相手の部屋で、夕飯をご馳走してくれるらしい。
初デートが自室とは随分と積極的な子である。二人だけの密室でならグッと距離も近くなれるであろう。
素敵な出会いを一心に願って、恋一郎は高く聳える超高級マンションの自動ドアをくぐった。
果たして。
***
玄関にある数字パネルの前に立ち、電話から伝えられた番号を押すと、恋一郎は深呼吸して首を揺すった。
こんな形で人を訪ねる事が初めてなので、相当緊張しているのだ。
『はい』
暫くするとパネル板の隣にある音声機から応答があった。
「あ、あの…っ!こ、こんばんは!」
恋一郎は身体を前後に揺すって今更ながらワチャワチャした。大理石の床でステップを踏む。
『伝言ダイヤルの方ですか?』
ハスキーな声が耳に届く。恋一郎は訊かれた問いに対して、首を上下に振った。
『今、開けます』
パネルにマイクが内蔵されているので、恋一郎の様子が相手には見て取れる訳である。
自動ドアが開くと同時に消え入りそうな声で『…待ってます』と聞こえた。
恋一郎は大きな蘭が飾ってあるコンシェルジュデスクの前を通って、ガラス張りのエレベーターに乗り込んだ。
ガラス越しに発光する歌舞伎町の夜景に目を向けて、心臓の音を鎮めようと努めたが上手くはゆかない。
恥ずかしい。
初めて会う人に求愛だなんて真似、果たして自分に出来るのであろうか。
それに、相手が自分の事を気に入ってくれなければどんな顔をしたら良いのやら…不安に心が揺れる。
だんだんと自信がすり減って、自然と内股になってしまう恋一郎なのであった。
69階に降り立てば、緊張はピークに達した。
今更引き返せば男がすたる。
不審者のような荒い息を立てつつ無機質な廊下を進む恋一郎なのであった。
69階の7号室はエレベーターから離れた位置であった。
ピンポーン─
何とかインターフォンを鳴らすと、徐ろにドアが開き、長身の女性がちらりと顔を見せた。
「え、えっと、あの、僕…っ!」
「恋ちゃん…、ですよね?」
ドアから身を滑り込ませてこちらに身を傾けるその女性はつみきみほちゃん似の美人だった。
切れ長の目がウルウルしていて、柔らかそうな小さな唇である。
化粧っ気がなくて、清楚な雰囲気だ。ショートボブのスタイルが似合っている。
「あ…はぃ…」
顔から火が出そうだ。
「あ、あのっ!ブ、ブーケさん…こ、これ…っ!」
用意していた薔薇をズズイッと差し出すと、恋一郎は瞳をぎゅっと閉じて「あ、あ、あなっ…ッ貴方と思って選びました!」と叫んだ。
「ありがとう」
女性は素直に花を受け取ってくれて、薄っすらと笑った。
可憐な人だ。良い匂いがする。
どうしよう、好きになりそうだ。
結婚したい。
恋一郎は唇を噛み締めてもじもじとした。
「さ、入って…」
女性はドアを大きく開けて中に招き入れてくれた。
可愛らしいスリッパを出してくれる。
部屋はまるでドラマの撮影用にあるような空間であった。
大きな革のソファに明らかに値の張りそうな間接照明、窓の外に新宿の夜景が瞬きをしている。
窓に貼り付けば、清澄の辺りまで良く見えた。
「恋ちゃんはお肉とお魚なら、どっちがお好みでしたか?」
差し入れた花を花瓶に飾りながら女性は質問した。
「お肉です」
恋一郎がほぼ即答すると、女性はクスクスと笑った。女性が笑うと彼女の着ている緩い色のシフォンワンピースの裾も揺れた。
「…あ、えっと…」
子供っぽいと思われてしまったかも知れない。
笑われた事により急に羞恥した恋一郎がまごついていると、女性は「お肉も用意していますよ」と優しくフォローしてくれた。
「ブーケさん、あ、ありがとうございます」
おっとりとして上品な物腰にすっかり恋一郎は虜になってしまって、恥ずかしくてそちらを見る事すら出来ない。
恋一郎は固く拳を握った。心臓が早く動き過ぎて壊れてしまいそうなのだ。
「すぐ用意します。お酒、飲まれますか?」
「折角なのにごめんなさい。僕、お酒飲めないんです」
恋一郎が手を振ると、女性はにっこりと微笑んでから「待ってて」と科白して目配せをした。
─あ…あかん。
恋一郎は仕組みが単純なので会って五分もしないうちから、すっかりその気になって惚れてしまったのである。
何処もかしこもカチコチだ。
***
ブーケの趣味は料理と裁縫だそうで、大理石のダイニングテーブルに出された料理は豪勢なものであった。
ヘレンドの皿の上にはズッキーニとアサリの白ワイン蒸しとか具沢山のスパニッシュオムレツ、恋一郎の大好きなチーズインハンバーグまで彩り良く盛り付けてあった。
ホテルのレストランのような立派な味だった。
「ブーケさん、料理本当にお上手なんですね」
恋一郎は豪華な装飾のあるカラトリーを使って、料理を忙しく口に運ぶ。
「そんな事ないです。…ただ、好きなだけで…」
ブーケは謙遜して首を横に振った。訊けば、好きが高じて週末は料理教室に通っているらしい。
「いやいや、こんな美味しい料理、毎日でも食べたいですよ!?是非、お嫁さんにしたいくらいです」
恋一郎は母親以外の女性の料理を生まれて初めて食べ、そのまんまの感動を伝えた。
「…それは」
ブーケはピクリと一瞬停止して、目を泳がせる。
拙かったか。
見て取った恋一郎は話題を別の方向に振った。
「あ、その…ところで!そう、ところでブーケさんは普段お仕事は何かされているんですか?…あッ!その、話したくないなら別に…ッ」
「いいえ。お仕事はしてなくて…花嫁修業を、まぁ、気ままにしています」
「へぇ…」
恋一郎はバカラのグラスに注がれたジンジャーエールで口を濯いだ。
「恋ちゃん、一つお願いしていいですか?」
ブーケは窺うように恋一郎を見た。
「何でしょう?」
あっけらかんと首を傾けると、ブーケは「『ブーケさん』だなんて堅苦しいのはよして、僕の事、『ブーケちゃん』って呼んでいただけませんか?」と侍って手を合わせた。
「えッ!?」
恋一郎は恥ずかしいくらい分かり易く赤面して汗を飛ばす。
「え?…えっと、良いんですか?」
それって、もしかしてブーケも自分を気に入ってくれているのかも知れない。
舞い上がった恋一郎は思わずジンジャーエールの隣のグラスを手に取って一度にキューッと飲んでしまった。
「あ…ッ恋ちゃん駄目!そっちはお酒…」
アペリティフ用のシャンパンを気分だけでも楽しめるようにとブーケが気を利かせて置いておいてくれていたのだった。
『しまった』だなんて思っても時既に遅い。
***
「う…ン…てて…」
「大丈夫ですか?」
目を開けると眉を寄せたブーケの顔が広がった。
「恋ちゃん?」
こめかみで脈を打って身体が熱い。
「…え?…僕は…?」
自分がどうなっているのか分からずに、テンパってしまう。空間がゆらゆらと回って見えて気持ちが悪い。
「恋ちゃん、お酒とジンジャーエールと間違えて飲んでしまったんです…僕がややこしい処に置いてしまっていたので…」
どうやらブーケにソファまで運んで貰ったらしい。
「ブーケちゃんは悪くないですよ」
何とか微笑むとオロオロするブーケは水を差し出してくれた。
「本当にごめんなさい」
「いや…僕こそ、情けない男で申し訳ないです…はは」
「恋ちゃん…」
「お水、ありがとうございました」
水の礼を言った恋一郎は眼鏡を外して胸ポケットにしまい、シャツのボタンを二つほど外した。
情けなくて涙が出て来る。
ブーケは魅力的な人だ。
美人で心優しくおまけに料理上手。家庭は彼女に安心して任せられそうだ。
伝言ダイヤルなど遊びに慣れた人ばかり集っているのではないかと多少なりとも心配していたが、彼女は立派な方だった。
自分はブーケに出会えたラッキー君のウルトラ幸せ者なのに、のっけからこんな有様じゃ一晩の出会いで終わってしまう。
そんなのは絶対に嫌だ。
しかしながらブーケにしたら自分はただの迷惑な男なのかも知れない。
そもそも自分は幾ら着飾ってもお馬鹿だし冴えないし、ダサいし、女性を口説いたりエスコートをする事にも不慣れだし、セックスだってした事がない。
ブーケの事を満足させてはあげられないだろう。
自分なんて所詮、親の七光りだけの人間なのだ。
「…あの…僕、帰ります」
恋一郎は身を起こして足を絨毯の上に付いた。
「え…ッそんな、無理ですよ!?」
「大丈夫です」
「僕にも心配させて下さいよ」
「ブーケちゃん…ありがとう…」
「ねぇ、恋ちゃん止して!もう少し休まないと…っ」
ブーケは優しさに徹して心配してくれる。何と素敵な女性なのであろう。
「…ごめんなさい…本当にありがとう」
やんわりと背に手を回してくれるブーケを制して立ち上がると、頭にスッと血の気がなくなった。
「う」
「…わッ!恋ちゃん、危ない!!」
バランスが取れずにゴロンと前に倒れ込むと、回り込んで来たブーケの胸に顔をしたたか埋めて覆い被さってしまった。
「あッ…!」
ブーケは咄嗟に酩酊した恋一郎を受け止めて受け身を取った。
同時に布を裂く音がした。
「…えッ!?」
驚きながらも恋一郎はごくりと生唾を飲んだ。眼鏡を外していてもそう言う事にだけは聡く出来ているのだ。
「れ、恋ちゃん…ッ!」
ブーケは布の裂け目を必死に握って肢体を隠している。
「あ…ッあ、あ…えっと…うあ…どどどどお、ど…え?あ…ッ」
恋一郎はカーッと頭に血が昇ってパニックになった。泣いているシマはない。
転倒する時に恋一郎はブーケのワンピースの生地を掴んでしまい、思い切り破いてしまったのである。
布の裂け目や捲れた部分から白いパンティやブラジャーが生々しく覗く。
「恋ちゃん…ッ」
ブーケは瞳をぎゅっと瞑って恋一郎の事を呼んだ。
可愛らしい唇が震えている。
覆い被さったまま恋一郎は懸命に考えた。
このまま退いて逃げたら、ブーケは悲しむ筈だ。
だって彼女は自室でディナーをご馳走するほどアピールをしてくれたし、勇気を出して『ブーケちゃん』と呼んで欲しいと言ってくれていた。
彼女は自分に気があるのだ。
男女の関係に及んでも変な事じゃないのだ。
自分だってブーケの事が好きだ。
開院して数年経つものの、収入は安定せず忙しいばかりで経済的には余裕がない。
取り立てて、毎月乗っかる医療器具のローンが地味に痛い。こんな事ならリースにすりゃ良かったのだ。
そんなこんなで親の脛を齧ってばかりいるのである。
親の支援がなくなれば好きで始めた動物病院はやっていけないだろう。
彼女とどうにかなってしまえば親に結婚の事をクドクド言われる事もなくなるし、支援は途絶えない。
この部屋の感じからしてもしかすると逆玉の輿の大チャンスかも知れない。
そうだ。
こんな体制でキスしないのは失礼な事だ。
「ブ、…ぶ…ブーケちゃんッ」
逆上せた恋一郎はブーケの顎に手を添え、ちゅっと唇を合わせた。
「…ン…ッ」
物理的には唇を押し付けているだけなのに、その部分に爆竹でも仕込まれているような刺激がある。
「…ブーケちゃん…あの、こんな事、突然で本当に申し訳ないんですけど…その…す、好きです…」
一度唇を離して、恋一郎は後出しジャンケンの原理で告白をした。
上目遣いをする恋一郎をブーケはどう見て取ったのであろうか。ブーケは信じられないみたいな顔をして固まっていた。
おそらくは全てを受け止めきれない様子だ。
「ン…好き…」
一方、味を占めた恋一郎はブーケの目の奥を覗き込んでから深く唇を混じ合わせ、ブーケの内腿に足を突き入れて身体を密着させた。
心臓がはち切れてしまうのではないかと思うほど緊張していたが、酒が回っているので勢いだけは良い。
キスの仕方など学校で習った試しもないので正しい方法かは別として、恋一郎はブーケの口腔に突起物をスルリと差し入れた。
ブーケは驚いたのか反射的に舌を引っ込める。
恋一郎は舌を深く伸ばして縮こまっている舌を掬い取ると、舌同士を擦り合わせて体液を啜った。
ブーケの口汁は甘い気がした。
「ブーケちゃん、セックスしませんか?」
恋一郎は腰をブーケの下腹部に擦り寄せた。
すっかり致せるものだと考えていたらば、ブーケは左右に首を振って拒否した。
「ごめんなさい」
「ど…どうして?」
ズキリと心にクレバスが奔る。
「僕、こんなつもりで食事に誘った訳じゃ…」
ブーケはやんわりと恋一郎の胸を押した。
「じゃあどんな意味だったんですか?」
恋一郎は納得出来る答えを求めた。
「僕はただ、男の人に手料理を食べて貰いたかっただけで…」
ブーケは視線を迷わせた。恋一郎に悪いと思っているらしい。
「料理は頂きました」
「まぁ、そうですけど」
「美味しかったです。ありがとうございます」
「嬉しいです…」
「ところでお願いです、ブーケちゃん。今すぐ僕を好きになって…?」
恋一郎は女性に向かって合掌した。額に脂汗が滲んでいる。
「そんな、突然…もっとお互い知ってからじゃないと…」
初心な彼女は手順に納得していない様子である。
「でも、もうバキバキなんです…僕のセレニティが…」
恋一郎はブーケに跨ったまま股間を押さえた。ズボンの中身が弾けそうだ。息もゼーハーしてしまう。
「え?」
ブーケは目を丸めた。
恋一郎は「僕のセレニティが…僕のセレニティが…」と幾度も譫言のように繰り返す。
要するに恋一郎はギンギンに勃起し過ぎて眩暈を起こすほどペニスを膨張させているのであった。
「恋ちゃん…ッ!?」
「…あの、僕、こう言う事に慣れてなくて、強引な真似をしてごめんなさい!」
恋一郎は謙虚に謝りつつもベルトを寛げて性器を取り出した。ぶるんと竿が揺れ、バチーンと勢い良く腹に当たった。
「イヤぁ!」
ブーケはカァっと赤面して顔を手で覆う。破れたワンピースが肌の上で更に乱れた。
「辛いんです…もう…僕…」
確かに辛かろう。恋一郎の肉棒は涎をだらだらと垂らして射精先を検索している。
「それ閉まって!」
「出来ません。…ねぇ、僕を好きになって?」
「こんなの駄目です!」
惚れたとかヤったとかは男女二人の問題だ。恋一郎を期待させてしまったブーケにも責任はある。
「ブーケちゃん…こうなったら一晩だけでも良いですから僕のセレニティを受け入れる係になって下さい!」
恋一郎は幾度も合掌して組み敷いた彼女に頭を下げた。
「恋ちゃん…」
ブーケは気の毒そうな顔をした。
「お願いです…セレニティが壊れそうなんです」
『ポケモンが瀕死なんです』みたいな響きだ。恋一郎は借金苦の人間のような形相で縋る。
「…でも」
「分かって欲しいんですッ」
分かっても何も、恋一郎はそれで真面目に口説いているつもりなのだ。
ペニスを握って「セレニティの受け入れ先を貸して下さい!」と元気に何度も頭を下げる。
恋一郎も相当のおボケだが、ブーケと名乗る若人もかなりの極楽とんぼである。
どう言う訳か「成程。それだけ決意が固いなら仕方ありませんね」と言葉して脚を開いた。
***
「ブーケちゃん、助かります!」
恋一郎はカラリとした明るい声を上げて女性のワンピースを剥ぎ、白い腰元に張り付いていた小さなパンティを下した。
ブーケの腿を持ってガバリと大開脚させるとブルンと竿が揺れる。
「あれ?!ブーケちゃんのクリトリスが大変な事になってますよ?」
彼女のアンダーヘアは存外に濃く、健康的に生え揃っていた。
その密林の中心にあろう事か恋一郎とほぼ同じ形の性器が鎌首を擡げていたのだった。
「…はい」
彼女は静かに頷くと目をギュッと瞑って唇を噛んでいた。恋一郎は機嫌良さそうにニコニコしている。
「綺麗な色です」
恋一郎は徐に彼女の性器を指で包む。
「れ…恋ちゃん…ッ」
ブーケは胸に手を抱いて身を固くした。可愛らしく恥じらっているのだ。
「多分、大丈夫。力を抜いて」
恋一郎は鼻息を荒くしてブーケの耳元で囁き、蜜袋を掌で揉んで転がした。
袋の中はずっしりとしていて、凝っている。大分と精液が停滞している感じだ。
「アッ」
ブーケは初々しい反応をした。
「ブーケちゃん可愛い声…好き…」
恋一郎はチュッとブーケのこめかみに口付けて、睾丸の更に奥まった部分を指で擦る。
「…ッあ!」
ブーケはカーペットの上に髪を散らした。
「濡れてる…」
「や、ヤダ…き、汚い…」
「厭じゃないでしょう?それに汚くもないです」
「あ」
「良い子…可愛いんですから」
恋一郎はブーケのこめかみに再び唇を落としてからその脈打つアナルにペニスを宛がった。
「今夜だけ…ブーケちゃん…」
「うう」
「僕のおまんこでいて下さい…」
それはスマートな誘い方ではない。完全にルール違反だ。そもそもブーケは道具やダッチワイフではないのだ。
「ブーケちゃん…ああ…好き…だ…」
恋一郎は切ない声を出しながら腰を落とし、ブーケの胎内に入ってゆく。
「あ…ッあ…っう、や…は、はいらな…ッ」
慌てた様子でブーケは恋一郎の肩を揺すったが、それは然したる抵抗にもならなかった。
ペニスは胎内に遠慮もなく押し入って入口に肉の輪を作った。
内臓の色をした部分が露わになり、秘孔は艶めかしい性器へと変化する。
それは一見、ピクピクと健気に痙攣する清廉な綻びであるが、恋一郎のペニスを受け止めて悦んでいた。
「あ…あ…っ」
ブーケは背を丸めて戦慄いた。性感にぞくりと鳥肌を立たせ、白いブラジャーの下にある乳房は魔乳を垂らす。
「ブーケちゃんの中…あったかくて気持ち良いです…」
恋一郎はうっとりとして「あー…」と声を出して腰をへの字にくねらせる。
ブーケの内側は極上で、包み込まれた亀頭をきゅっきゅと襞が引き付ける。
「れ、恋ちゃん…ンッ」
ブーケは誘うように尻を捩らせた。汗ばんだ項が可愛い。
「はぁ…凄い…ブーケちゃん…全部入っちゃった…あー…凄い…」
恍惚の表情で口をだらしなく半開きにした。少し動いたら射精しそうだ。およそ長時間は耐えられそうにない。
「い…ヤぁ…」
「はぁ…凄い…ブーケちゃん…」
恋一郎は獣のような荒い息を立ててブーケの尻を揉んだ。
「ヤ…めて…」
尻の割れ目まで愛液で滑っていた。口では拒んでいても、声は幼い調子で甘みがあり、彼女も感じてくれている事が分かる。
「ン、あぁ…」
「ブーケちゃん、好き…好きです…」
ブーケの肩から滑るブラジャーの紐とカップの間に恋一郎は鼻を埋めた。
「あッ!い、今はだ、駄目ッ!あっ」
ブーケが「恋ちゃん!」と叫ぶ前に恋一郎は鼻で器用に割って胸元に押し入り、彼女の勃起した肉芽をじゅうっと吸った。
「イやああっー!」
びゅるびゅるびゅるっと勢い良く乳液が飛び出て、恋一郎は懸命に嚥下した。
ナタデココの触感と肉芽のソレは似ていて、押し返して来る弾力があった。
「恋ちゃんッだ、駄目!駄目!!へ、変!こ、怖い!!」
ブーケは甲高い声を幾度も出して恋一郎の胴をしっかりと脚で拘束してしがみ付いた。
「こんなに悦がって下さるだなんて…感激です…」
おっぱいをちゅぱちゅぱしゃぶりながら恋一郎は腰を必死に動かす。
「可愛い人」
「うああッン!!」
悦びの声を上げてブーケは惜しげもなく射精した。沢山のおっぱいが天井近くまで散った。
不思議な事に、ブーケは処女だのに尻の綻びで辿り付く術を知っていたのである。
「あ…うう…」
「いっぱい出ましたね。可愛い」
恋一郎は悪戯っぽくペロリと唇を舌で拭った。
「レ…ンちゃ、…」
ブーケは腿やら背をぶるぶる震わせながら胎内の恋一郎をきつく締め付ける。
初めてセックスをして射精を迎える時、何を発するのがマナーなのであろうか。
恋一郎は「ブーケちゃん、好きだッ!」と抱き付いてその時を迎えた。
ハートはフルボリューム。
夏でもないのにサイダーのように身体の内側から弾ける東京は新宿・歌舞伎町の夜だった。
***
ぶるぶると小鹿のように痙攣するブーケを抱き込んで、恋一郎は寝室のドアを開ける。
ブーケはされるがまま、白銀のシーツの上に寝傍った。
彼女はロールケーキの具材のようだ。
それは如何にも柔らかそうで、さっくりとスプーンで切って食べれば優しい味に違いない。
彼女に跨った恋一郎は立派な布地で仕立てられたジャケットを脱いで、彼女の一筋だけ溢れた髪を掬った。
「ブーケちゃん、綺麗だ…」
自分の美人さに気付けない美人は魅力的である。何と口説けば彼女をもっと此方側に引き寄せられるのであろう。
恋愛経験のない恋一郎には未知の領域だ。
「恋ちゃん」
「ブーケちゃん」
自分と彼女の体重の掛かる部分だけシーツが九十九折りになっている。
「ごめんなさい…緊張してて、僕、慣れてなくて…」
彼女はたどたどしい口調で詫びた。
「そんな言葉貴方には必要ありません!十分魅力的です!」
恋一郎はあるがままを言葉した。
彼女はそのままで美しい。
恋一郎は初めてブラジャーに触れ、後ろ側のホックを外した。下着は体液でぐっしょりと濡れて重みがある。
「期待しないで…」
ブーケは胸元をそっと隠して顔を背けた。
「何故?」
「だって…」
ブーケはAAAカップである事を心配しているらしい。困った顔が愛らしい。
「ブーケちゃんは素敵です」
恋一郎にとってはその恥じらいが愛おしいだけである。
そっと手首を握ってシーツに縫い付けると、寛げられた皮膚の上に可愛らしいアイシングが垂れ、脇は汗粒で輝いていた。
「とても、綺麗ですよ」
恋一郎はうっとりとして唇で唇を結び、深く接吻をする。
ブーケと出会えて良かった。
初めての相手が彼女で本当に幸せ者だ。
頭が悪くて誰からも期待されないで過ごして来たけれど、ずっと誰かに虚しさを埋めて貰いたかった。
期待されない寂しさや、無駄だとされて無視される事にどうしようもない焦燥感を覚え、翻弄された時代が長かった。
醜い立場である己を自分自身で受け入れて愛す事は難しかった。
自暴自棄になってしまうのだ。
彼女と結ばれる事で、やっと大きな荷物を降ろせる。
自分は自分のままで良いのである。
一心に恋一郎の口腔を頬張るブーケは顎からツーっと体液を零す。
「ああ…ッだ、駄目!恋ちゃん。な…なりませんッ」
唇を離れて首筋を通り、小さなザクロの粒を舌先でチロチロと舐め転がすとブーケは紅くなって愧じた。
「嘘おっしゃい…こんなに悦んで」
彼女のクリトリスは芯を通して20センチ級に育つ成長過程にあった。
恋一郎はシャツのボタンを最後まで外すついでにそっとその花芯に触れる。
「ああッ!」
「可愛い」
「う…そ…だッ」
大股を開く彼女の脚は沢蟹の如く蠢く。
「本当です。シネマ女優のようですよ」
恋一郎は鬱蒼と笑って「本当に」と続けた。
「イ、やぁ…」
両手で肉芽を揉むと果汁はみるみると溢れ出し、胸の隆起から放射線状に真珠色に光って濡れる。
「君は堪んない美人さんです」
「あぁっ」
耳元で吐息を吹き掛けると豊艶に悲鳴する。
「ほら」
「…あ、いや」
ブーケは欲望を煽るようにオーバーに肢体は仰け反り返った。
「とても素敵」
恋一郎は母乳で汚れた皮膚を凝視しながら揺らぎを打つ。
「こんなグラマーで瀟洒な女性、僕は初めてです。この世に君だけ…好き…」
本当の事だ。こんな幹の如く勃起した試しはない。
「そんな…も…ッああ!」
ブーケは赤面して首を振った。
「好き」
「ああっ…れ、恋ちゃんッ」
切ない喘ぎ声だ。
捏ね繰り回す其処は腫れて天を向いている。
少し力を入れて捻るとびゅるりと勢い良く右胸の乳房から液が跳ねる。
「もっと聞かせて…君のえっちい声…」
興奮して鼻の奥がズキズキと痛感が奔る。
恋一郎はブーケの肉粒に少し歯を立てて扱き、彼女の下半身もわし掴んで揉み始めた。
「ああッ!いやッ」
「イク?」
恋一郎がそう聞けば、ブーケはオートマチックな人形のように「ヤダッヤダ!」と首を振った。
「どうして嫌なのですか?」
真っ赤に茹って随分苦しそうなのにあんまりにもブーケが「ヤダ」と繰り返すから、恋一郎は手を止めた。
肩で息をしてフーフーしていたブーケは凍えたように戦慄く。
呼吸を整えて彼女は「恋ちゃんと一緒が良いです」と可愛らしい事を言って恋一郎のシャツを握った。
「ぶ…ブーケちゃん!!」
カーッと脳天に血が登った恋一郎は自分の中心を握ると、「我慢出来ませんッ!」と降参を告げ、粘ついた雨裂を割って滑り込む。
「ああーっ!れ、恋ちゃんッイくよぉーっ!!」
内腿に痣を作るのではないかと言うほど強く腰を打ち付ける恋一郎を受け止めて、ブーケは飛沫を散らした。
ムッと雄の饐えた香りが広がる。
「ブーケちゃん!ブーケちゃん、好きだ!!」
激しく皮膚を打ち付ける音が室内にリズムする。理性を失った恋一郎は夢中で腰を振った。
燃えるように熱い。襞が密着して気圧されそうになる。
「だ、駄目ッ!もう一回キちゃうッ!!いやぁーッ!」
ブーケは絹の裂くみたいな悲鳴を出して、胸や幹の先端から爆射させた。何処もかしこも嵐である。
「ブーケ、っちゃ…ンッ!」
胎内の収縮につい先ほどまで童貞であった恋一郎は太刀打ち出来ずに種を零す。
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