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【後篇】光咲く海 (完)
「壊したかねぇよ」
喪 うのは、もう厭 きた。
「君がそれを言いますか」
「言うよ……あんただから」
「では私が『帰らない』……と言ったら?」
カトンッ
盃が落ちた。
床に跳ねて、河の底。
深く、深くに堕ちていく。
敵意。
否、殺意。
先生の気配が変わる。
先生が刀を取った。
袖の向こう。
気配で分かる。先生は刀を取っている。
抜いた。
目で追う時間はねぇ。
先生の閃きが、俺を斬る前に。
「壊す」
あんたを壊してでも。
「帰れ」
あいつらのもとへ。
アルタナに還れ。
もう一度、怖がる事はない。怖がらないでくれ。
あんたはもう、ひとりじゃない。
(俺達がいるよ)
何度やり直したって、俺達がいる。
俺達があんたを探す。
探しだしてみせる。
あんたの意志を受け継いだ俺達が、あんただ。
あんたが生きるために。
先生……
「俺ァ、ただ壊すだけだ」
刀を抜いた。
この一閃で。
迷いはない。
(断ち斬る)
「弟子に師を……」
刀が動かない。
止められた。
(徒手空拳 )
先生は最初から刀など持っていなかった。
フェイクだ。
「二度も斬らせるわけにはいかないでしょう」
先生が握っているのは、俺の腕。
足が宙に浮いた。
体が吹っ飛ぶ。
投げ飛ばされたのは、桜の河。
ゆらり舞う淡い川面に叩き付けられた。
沈んでいく。
体に力が入らねぇ……
浮上できねぇ。
『ありがとう。私の愛弟子』
声が聞こえた。
遥か頭上に揺らめく水面からではなく、地の底。
桜の下
碧く深く、たゆたうこの場所は……
龍脈
アルタナの海
『君は生きなさい』
君は私の血を継いでいる。
君もアルタナの一部であり、私の一部でもある。
私と同じ、君も……
(やり直せるんですよ)
分かるでしょう。
私と同じ、アルタナで繋がっているなら。
(私の思考は、君の思考でもある)
君が、私に生きてほしいと願うように……
(私も君に、生きてほしいと願っていますよ)
私はアルタナに還って、君を守る。
君の次の『生』を繋ぐため。
君の誕生を見守るため……
「先生ェェェー!!」
ありがとう。
私を最期まで「先生」と呼んでくれて。
君が生きるという事は、私が生きる事だ。
君が生きれば、私も生きている。
君の隣で、君の中で、私も生きていますよ。
『再び生きてください』
君の中で、私は生きる。
この『生』を全うする。
君と、ともに……
『君のお伴は私がしますよ。それが師の務めです』
次の『生』で再会しましょう。
私はいつもそばにいる……
『晋助』
君はひとりじゃない。
アルタナの海が揺れて、先生が笑った……そんな気がした。
俺ァ落第生で、落第生の俺にはまだ宿題が残っていたな……
《fin》
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