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【中篇】うたかたの盃

「三途の桜を眺めながら飲む酒なんて、風流じゃないですか」 ひょいっと俺の手から盃を奪って、先生は一口で飲み干した。 「しょっぱいです。もしかして泣いてましたか」 「は?なに言ってるんだ」 無意識に右目を先生から逸らしていた。 「先生の頭の中にも花が咲いてんのか」 「さぁ、どうでしょう。頭かち割って見てみますか」 「笑えねぇ」 いくら不死で、どうしたって死なないっつっても、笑えない冗談だ。 昔から、冗談が下手なのも変わってない。 冗談の一つも返せない俺は、先生に似たのかも知れないとふと思い、笑みが零れた。 俺の頭ん中も花ァ咲いてんのか。 それとも魔が差したとでも言うべきか。 どっちでもいい。 この一献の盃を傾ける今だけは。 時の流れに、心のままに身を委ねよう。 (今だけは) 差し出された盃を受け取った。 先生の注いでくれた酒を飲む。今度は俺が盃を渡した。トクトクと注ぐ先生の盃に酒が零れる。 「これ飲んだら帰れよ」 あんたの居場所は、ここじゃねぇ。 先生はアルタナから生まれた。星の生命力とも云うべき龍脈だ。 アルタナから生まれたあなたはもう、不死ではなくなったが、だが。 俺の勝手な想像だ。 「やり直せるんだろう」 アルタナに還れば、あなたはもう再び『壱』から。 生の始点から、やり直せるんだろう。 (不完全とはいえ、(おぼろ)の……朧が受け取ったあんたの血の力で、俺も一度は不死となった) だから、分かるんだ。 あんたと俺は、一つに繋がっている。 「つれないですね。小さい頃の君はもう少し可愛かったのに」 「『もう少し』は余分だ。今でも可愛い」 「フフフ」 「……そこ、笑うところじゃない」 散る桜が川面を染める。 「帰ってくれよ」 あいつらの所へ……

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