3 / 21

辻村くん

「課長、資料出来ました 確認お願いします」 「はいはい、えーっと……うん、完璧 このままで大丈夫だよ、作るの上手くなったね」 「ありがとうございます!」 昼のオフィスはたくさんの人と声で溢れていてとても騒がしい。 僕、武岡玲於(れお)は騒がしい中、大量に回ってくる仕事と格闘している。 そんな中で一際、騒がしくなる。 「辻村さん、すみません! 今日のプレゼンで使う資料に不備が見つかって……ど、どうしましょう あと一時間しかないのに ……!」 ……あの子は最近うちの部署に来た子か。 教育係は確か…… 「大丈夫です、落ち着いてください」 「辻村さんの方がめちゃくちゃ震えてますよ!?し、振動でコーヒーこぼれそう…… お、落ち着いてください」 「……すみません、大丈夫です 一回、一緒に深呼吸して……すーはー…… ……手分けして作り直しましょう 私はこれやるのでこっちの方お願いします」 「はい!……って、あの、これ 私の方がかなり量少ない……」 「一時間以内に間に合わせます 頑張りましょう」 「は、はい!」 辻村くんか。 辻村敦斗(あつと)くん、若いながらもかなり仕事が出来る。 アルファだから、と言いたくなるが時折抜けている所がありすごく親しみやすい。 社内の女性達の評判もいい。 彼なら僕が出なくても大丈夫だろう。 「課長、すみません この資料についてですが……」 「少し待って、すぐ確認するから」 すぐに目の前の仕事へと戻り片付けていく。 ​─────── 「武岡課長、プレゼン無事に終わりました」 辻村くんと社員の子が報告に来る。 「お疲れ様 資料の方、ミスあったみたいだけど大丈夫だった?」 「!すみませ「はい、彼女の頑張りのおかげでミスはありましたがプレゼンまでに間に合わすことが出来ました」 社員の子が何か言いたそうにしているのを遮り、辻村くんが話す。 「彼女はプレゼン初めてでしたが、資料も細かい所まで分かりやすく先方にも好評でした」 「んー……そっか、二人ともお疲れ様 もうすぐ定時だから仕事の目処ついたら上がってね ……辻村くんは少し残ってもらってもいいかな」 「はい、分かりました ……先に上がってください」 「は、はい!あ、ありがとうございました! 失礼します」 社員の子が頭を下げ自分の席へと戻っていくのを確認して、 「……辻村くんは仕事もできて優しいとは思うけど優しすぎるんだよなぁ 誰でも庇っちゃう いいとは思うけど限度ってものがあるよね…… やりすぎは逆に相手のためにならないよ」 「……私は事実をそのままお伝えしただけですが、以後気をつけます」 「う〜ん……ま、いっか お疲れ様、上がって大丈夫だからね」 「はい、ありがとうございます 失礼します」 そう言って辻村くんが戻っていく。 くっっっそ真面目。 いいとは思うけどいや、良くはないな。 あの優しさはいつか自分自身の身を滅ぼす、 とは思うんだけどね。 「……仕事は出来るし評判もいい けど、必要以上に優しい子ってやり辛いんだよなぁ ……僕の嫌いなタイプだなぁ」 ボソリとつぶやく。

ともだちにシェアしよう!